「感じ悪いなあ、あいつ」
サスケは顔をしかめた。
隣に立つカスミが、緊張しているのか少し不自然に声を立てて笑い、それが頭の上から振ってくることに彼は一抹の悔しさを覚える。
修行の身とはいえ、彼女がいつもと様子が違うことくらいはわかる。それが、今目の前で少年が立ち去ったほうをむず痒いような表情で眺めている人間のためであることなど、修行をしていなくてもわかる。
サスケは、早く背が伸びればいいのに、と思った。
それから、背後から近づいてくる足音に気付き、振り返る。忍び寄ってきていた軍主の少年が、鳩が豆鉄砲をくらったような顔で動きを止めた。
「何やってんだよ」
「つまんないな。もっと驚こうよ」
これじゃ逆じゃないか、とムツは本当につまらなそうに言った。
今度は気配に気づいていたらしいカスミが苦笑して、小さく頭を下げて挨拶をした。ムツは笑顔で礼儀正しく返事を返すと、まだ向こうを見ているセオを見て口を尖らせた。
「セオさん、もしかして立ったまま寝てるんですか」
「残念ながら起きてる」
振り返ったセオはもう笑顔を取り戻していた。その表情は、先刻までとは少し質が違う気がした。サスケはそっとカスミを窺ったが、彼女は相変わらず微笑んでいた。
「別に残念ってほどじゃないですが」
振り返ったものの、どこか別の場所を見ているようなセオに、ムツは口元を歪めただけの笑顔を向けた。その顔をした彼が光の中にいるのは、やけに寒々しく感じられた。
サスケはふと、二の腕を押さえた。
セオが肩を竦めて、それから、不意に何かを思いついたように目を細めると、断るように三人に向けて手を振ってその場から立ち去ろうとした。サスケはまた、思わずカスミを見たが、カスミの表情は変わらなかった。女の人はわからない、とサスケは内心で呟いた。少し寂しかった。
セオは捨て台詞のように言った。
「特別出演料でも払ってくるよ」
「…誰に?」
サスケは今度は口に出して呟いた。それには誰からも、何の答えも返らなかった。その代わりのように、ムツが歩き去ろうとする背中に声を掛ける。
「いい夢でも見たんですか?」
振り向いたセオは目を見張り、それから面白がっているような空気を漂わせた。眩しい世界に半ば身体を溶け込ませた彼の表情は逆光で淡くぼやけ、口元だけがはっきりと笑みを刻む。
「そう、天国の夢」