連続短編小説     それゆけジャッカス
       ジャッカスであろう日々  その2   「スナック・さゆりとは」 

 
 
 
前回から唐突に出現したスナック・さゆり。

  しかし、本編 (ジャッカスであろう日々)は未来の話、
 多少無理があろうと、かなり失礼と思われようと、
 こちらの好き勝手にどんどん話は進む。

  皆さんに了承を願うとともに、しっかり話しについて
 きていただきたい。
                         健闘を祈る。

  さて、本題に戻ろう。 ジャッカスも年をとり、各人
 それぞれのかたちではあるが、現役を引退した。
 あまり有名になったり、大富豪に成ったやつはいないが、
 とりあえずみな元気である。

  子供たちも大きくなり、悠々自適とまではいかないが、
 ジャッカスは暇な老人グループになりつつあった。 しかし
 ここでそのまま大人しくしていないのがジャッカスたるところ。

  「永いこと矢の川の家や、おっちゃんのところを
   溜まり場にしていたが、わしらもここらへんで趣味と
   実益を兼ねて店でも建てようや」

  「おっ、えぇなぁ。 さゆりさんべっぴんやからママさんに
   したら結構、はやるかもしれんでぇ」

  「そうや、そうや。 春妃ちゃんなんかやったら、
   ごっつうお客さん、つくんとちゃう?」

  いつものように酔っ払った勢いで好き勝手なことを
 ジャッカスが言いだし、

  「それ、えぇなぁ」

  と、いつものように他人事のように無責任な矢の川の
 一言で話は決まってしまった。

  「僕、マスターなぁ」
 
  と、矢の川が言えば

  「ほな、僕、厨房にはいらしてか」

  と、おっちゃんが本気になる。

  「そうや、隣には炉端焼きの店つくって、大将は
   健ちゃんにやってもらお」

  「ひゃー、そしたらそっちの厨房にも僕が
   はいらないかんやん、これはめっちゃ忙しいなぁ」
 
  とおっちゃんが喜色満面で張り切る。

  その後、嫌がる御大・さゆりさんの親父さんを無理やり
 引っ張り出し、2軒の店の建設を一手におしつけ、
  
  きれいな服がいっつも着られるねんでぇと、言葉巧みに
 さゆりさんを誘い出し、
  
  時給3千円で、何とか春妃を拝み倒し、

  私らも手伝いに行くわぁと言う、ツーちゃんと博子さんを
 何とか週一回に押さえ込み、 とうとう店をオープンさせて
 しまった。
 
  当初の予定では洒落たカクテル・バーになるはずだっ
 たが、出来上がってみるとなぜかスナックになっていた。
 どうも、説明が足りず、さゆりさんの親父さんの好みが
 強く反映されたようだ。
 
  開店当初は美人のママに、ピチピチの女の子、人当た
 りのよいマスターと、とどめとばかり投入した切り札、
 ボーちゃんこと、棒谷君のボーイが功を奏して結構
 繁盛していた。

  しかし、そこはそれジャッカスのお店。

  月に一度、べろんべろんによっぱっらて、お客に
 介抱させるママ。

  しつこくいいよる酒癖の悪い客を
 
  「おどぅぉれらー、ぅわったしをどぅられやと、
   ぅ思っとんねん」

  と恐るべき巻き舌でやり込める女の子。

  ひいきにしてくれた女性客といつのまにかいなくなって
 しまうボーイ。

  チャチャリ・ラリラーと丼を回しながら酔っ払うマスター。

  カウンターには高校生時代のアルバムを見ながら、
 ギターを振り回し、かぐや姫の歌を唄って、くだを巻く
 常連・ジャッカスの面々。           

  月に一回。 こなくてもいいのに、もとい、店を心配して
 様子を見に来ては、お客をたたきまわす、もとーい、
 お客とスキンシップを図ってくれる荒井の大魔人、
 もっ、もっ、もっとーーい、いつもラブリーなチエサン。

  週一だっつってんのに、毎日きて。 しかも、働きもせず
 世間話をして帰る主婦二人。  あっ、今日なんか
 わざわざ明石から、りさママまで呼びゃーがって。

  三ヶ月で、店の客は結局、ジャッカスだけになっ
 てしまった。

  いっぽうそのころ、隣の炉端焼き 「健」 では、
 さゆりさんの兄・健ちゃんが首をひねっていた。

  「おっかしいなぁ。お客さん、みんな大西さんの料理、
   おいしい、おいしい、ゆうて帰っていくのに。
   何で誰も二回目、来てくれへんのかなぁ?」

  そのとき、おっちゃんが厨房でポツリと一言、
  
  「そらぁー、隣の店がなぁー」

       
      「スナック・さゆり」とはそういう店だ。