ジャッカスであろう日々  その1 「スナック さゆり」



 

 
  長かった冬が終わり、桜の季節がやってきた。
  ここ 「スナック さゆり」にはいつものメンバーが、いつものように
  浮かれ気分で集まってきていた。

   「アーラ、高須さん。 今日もお一人?
    さびしいのね。」

   「まぁ、そういうなよ、春ちゃん。 ここはみんなの休息の場所だ。
    やぼなつっこみはなしにしょうぜ。」

   「そうね、毎回おんなじこと言っていても、こっちも面白くないしね。
    ビールにする、それとも水割り?」

   いつものように軽いやり取りが交わされ、夜のひと時が始まる。

   「春ちゃん、今日はママはどうしたんだい?」

   「ママは気さくにつきっきり。 今度こそしっかりした男の子に
    育て上げるんだって、もう必死よ」
   
   「ふーん。 真之介だって、今じゃぁいっぱしの画家だ。
    この間だって5号の絵が1千万円で売れたそうじゃないか。
    親孝行な息子なのにいったい何が不足なんだろねぇ」

   「お父さんに似てるのがどうも気に入らないみたいなの」

   「ふーん、俺なんざ、矢の川はいいよなぁーでかなり
    鳴らしたんだがなぁ」

   「おまぁーえに、めいわくかけたんかぁーい」

   「げっ、矢の川、そんなとこにおったんかいな?」

   「あったりまえじゃぁー、ここは俺の店やねんろー」
        
  いつものように高須・矢の川の漫才が始まる。
  
   「まぁ、まぁ。 じゃれあいはそのへんにして、
    僕の作ったパエリアでも食べんか」

  厨房からおっちゃんが、ぬぼーっと現れる。

   「パエリアやノーて、それはゾエリアやぁー」

   「ふるっい話むしかえしよんなぁ、こいつは」 

  厨房も巻き込んで宴たけなわに成ると、突然   
  端のほうから長身の男が、満を持して大声を上げる。

   「布団の上にアルミ缶、
     アルミ缶が、吹っ飛んだぁー」

   「てっちゃんは寝とケー」

  と全員が叫ぶ。

   「あーぁ。 これじゃ、又今晩も儲けなしね。
    ボランティアでやってるわけじゃぁないんだけど
          ジャッカスって、やっぱりいつまでたっても
                        ジャッカスなのねぇ」

  スナック・さゆりに集う面々、悪気はないのだ、
                           許せ春妃。