昔、昔というほど古くはないが、あるところに30前の独身男がいた。
彼の職業は現場監督。 ある日、北海道の現場に出張となった。
盆と正月、ゴールデン・ウィークは家に帰っていたが、
それ以外は、さすがに北海道、日曜にちょっと帰ってきます
というわけにもいかず、そんな調子で半年ほど宿暮らしを送っていた。
仕事も終盤を迎え、現場詰所の人も減り、一人で机に向かっ
ていた彼は、ある日、ふと思った。
目の前の電話、これが家と僕をつないでいる唯一の糸なんやなぁ。
これがなかったら、すぐには連絡のとりようがないんやなぁ。
しかも、これで電話しても誰か一人としか話が出来へんのやなぁ。
だけどその時の彼は、ちょっぴり寂しいけれど、電話の存在が
とってもうれしく、安心した気持ちになった。
時がたち、彼も40歳になった。 ところが、ひょんな仕事のめぐり
合わせで、昔ほどの長期ではないが、今も北海道の同じ現場に
ちょくちょく行っている。
ところがどうだ。 今や彼の腰には携帯電話がぶら下がり、
目の前にはノート・パソコンが置かれている。
いつでも、どこからでも家に電話ができ、ノートを開けば、仲間の
やりとりが手に取るようにつかめる。 なんという文明の発達、
技術の進歩。
彼は現状に有頂天になっていた。 そんな時、テレビでこんな
ニュースをやっていた。
「パソコンを利用して、独居老人の孤独死を防ぐのが我々の
役目です。 冷蔵庫の開け閉めの回数が設定した数より
少なかったり、お風呂で同じ場所から動かなかったりすると
自動的に、大丈夫ですか? と機械が声をかけ、それでも
応答がない場合は、離れて暮らしている家族の元に連絡が
行くようになっています。」
彼は、少し悲しくなりました。
そんなもん、たまに様子を見に行ったり、電話をしたったら
ええのんとちがうんか?
パソコンも電話も、誰かが使わなくては、勝手には動きません。
それに、人は機械と話がしたいのではないでしょう?
持っていてもかかってこない携帯電話。 打ちっぱなしで返事の
こないメール。
文明の発達、技術の進歩。 何のことはない、肝心なのは結局
人の心がけ。
というわけで、
頑張れジャッカス・メール網のセンター・ライン、おっちゃん、高須。
ちょっと柄にもなく、話がくどかった。 あぁー、しんど。
風呂入って、いっぱい飲んで寝よぉー。