連続短編小説      それゆけジャッカス
   ジャッカスな日々  その4「ジャッカスのハート・ケーキ・パーティー」

 
 

  ことの起こりは、 「雪苺娘」 だった。
 なにやら、大阪のほうで、流行っているお菓子らしい。

   矢の川が、珍しく大阪出張でその売り場を目撃してきた。
 
   「めっちゃ、ようけ並んでんねんでぇ、
      あんなもん、僕、よお買わんわぁ」

   都会の人気に当てられ、弱気になっている彼に叱咤・激励の
  メールが集中する。

   「雪苺娘食べたいなぁ」

   「今度の休みには、ケーキ・パーティーしたいなぁ」

   「高須さんは忙しいみたいやし、
     頼みの綱は、矢の川さんだけやなぁ」

   周囲の期待を一身に受け、矢の川が、意を決して
  列に並ぶ。

   くたびれたサラリーマンや、顔黒のねーちゃんに混じり、
  雪苺娘を手に入れんと、矢の川が並ぶ、並ぶ、並ぶ。

   ついに手に入れた 「雪苺娘」。
  明日のケーキ・パーティーに間に合わせなければと
  中谷家に急いで届ける。  ところが留守だぁーーー。

   「どぉーこ、いっとんねん、こんなに遅くまであいつら
             めーっちゃ、業わくわぁ」
   
   そんな思いを露とも知らず、酔っ払って遅くに帰ってきた中谷夫婦。

   「げっ、雪苺娘や。 ケーキ・パーティー、明後日になったの
    矢の川さん、知らんかったんやろか?」

   矢継ぎ早にメールを送り、あっち、こっちの都合を調整する。
  
   しかし、都会出張でストレスにめげている矢の川は
  爆発寸前。

   「あぁーした、うちの建設現場で、バァーべキューやぁ」

   と、話をまぜっかえす。

   いっぽう、そのころおっちゃんは。
  
   「なぁーんで、飲み会するのに、ケーキ・パーティーって言うんやろう?」

   と素朴に首をかしげている。

   
   そぉーんなことをいっている場合じゃない。
  ほらみろ、岩本家は今朝のメール、読んでないじゃぁないか。
  2時じゃぁ遅い、11時からバーベキュウーだ、 知らなかった?
  なぁーんて奴だ、メールチェックしてないんか? 

   買い物はどうするんだ?  現地に集まってから買出しに行く?
  よーし、任せろ、スーパーならおっちゃんが得意だぜぇー。

   駐車場にナベさんがいた?  えぇーい、そんなもんほっとけぇー

  
  わぁ、わぁと段取りしたジャッカス・ハート・ケーキ・バーベキューは
  いつものように近所迷惑顧みず、大合唱で終わりを告げる。

   帰りの道を千鳥足。  どぶにはまりながら考えた。

                  
                  「今日の集いは、なんだったんだろう?」