連続短編小説   それゆけジャッカス
ジャッカスだった日々  その1  「ジャッカスの外野陣」  

 
 

    北海道から帰ってきたジャッカスは、いつものような
   平凡な日々に戻り、相手が勝ったりジャッカスが負け
   たりする、毎度おなじみの成績を繰り返していた。 
   
    しかし、平凡に見えても、たかが草野球、されど草野球。
   今回は少し、知られざる彼らの精神的な部分について
   触れてみよう。 
  
       やったことがある人ならお分かりだろうが、草野球の外野は
   はっきりいって球ひろいだ。 相手チームがよほどの強打者
   ぞろいでもない限り、ボールに触れられるのは試合中、
   1、2度というのが普通である。

    内位野手ならアウトを取るたびにボールをまわして、
   手になじませることもできるが、外野はたいていベンチと
   守備位置を全力疾走で行ったり来たりしているうちに試合が
   終わる。

    おまけに、この1、2度のチャンスに平凡なフライが来れば
   よいのだがそうはいかない。フォアボール、デットボール、
   盗塁、エラー、パスボール、悪送球。  3、4点取られて
   なおも満塁。 いつおわるのかなぁ?

    と 集中力が途切れた時に限って

    「パッカーン」

    と快音を残した打球がコンコルドのような勢いでわれわれ
   ジャッカス外野陣のはるか頭上を超えて行く。大ホームラン。
    
    ここでガッツポーズをしながら悠々とダイヤモンドを廻る
   バッター、口惜しそうに打球の突き刺さったスタンドを
   見つめる外野手。 などとプロ野球のような劇的な場面を
   想像してはいけない。
   
    草野球には外野フェンスなどない。  抜かれたら最後、
   隣りの町まで転がりつづける勢いのボールを捕まえなければ
   ならない。  
    
    よそのチームには、たらたら走りながらボールに向かって

    「とまれよ?」

    とばかり、グローブを投げつける人もいるが、ジャッカス
   外野陣、そんな無様なことはできない。

    走りに走ってボールを押さえ、バックホーム。
   ただし、その頃には、走者一掃、打者もらくらくホームイン。
   次打者まで既に打席に入り

    「はよ、せーよなぁ」

    という顔をしている。
   この口惜しさがわかるかぁ、ジャイアンツの松井。

    しかしジャッカスの外野陣、こんなことで負けるものか。
   球拾いといって、くさってたまるか。  これでも一生懸命
   やれば結構難しい。

    フライがあがれば、お互いにカバーに回り、
   ゴロが来れば、一歩でも前で押さえて内野に返す。
   スチールされればタッチプレーの後ろに回り、ゲッツーの
   時には悪送球に備える。

    右に左に全力疾走、ボールに触らなくても野球は出来る。

    「矢のような送球でランナーをホーム寸前、タッチアウト」

    そんなプレーを夢に見て、今日もボールを追いかける。

    「おらぁー、どこまででも転がるがいいぜぇ。
     地のはてまでも追っかけてやらぁ」

                      走れ、ジャッカスの外野陣。