網走でハードボイルドに決めたジャッカスは美幌、
屈斜路湖、摩周湖へと進む。
なに? 網走から次へ進むのにえらく時間がかかった?
すっかりこの短編小説の事など忘れていた? 作者が
あんなやつだから、ネタに困ってとうとう投げ出したんだ
ろうと笑っていた?
どっこい、近所の迷惑考えず、廻りの都合など
お構いなしに突然、続きがまた始まるのだ。 こちらの
かってで、この小説は連続にでも、断続にでもなるのだ。
恐れ入ったか。
とにかくジャッカスの進撃はまだ終わらない。 今夜の
宿は摩周湖ユースだ。 ここでまたジャッカス伝説が
生まれる。
そうそう伝説といえば、宿に入る前にみんなで摩周湖を
見に行ったのだが、なんでもこの湖はいつも霧に包まれ、
めったには見ることができず、運よくその姿を見ることが
出来た人は、素敵な恋人にめぐり合うといわれている
そうな。
ジャッカスもそんな話を知ってかしらずか、けっこう
緊張して見に行ったのだが、 おまえらなんかにぜ―ったい
見られてたまるもんか、ちょびっとでも見られたら私の信用に
関わると言わんばかりの深い霧に阻まれ、陰も形も
見えなかった。 伝説にだってたまには例外があっても
いいと思うのだが、如何なもんか。
まぁ、美しい伝説にはあまり縁がないので、我々の方の
伝説の話に戻ろう。 何を隠そう、この夜、矢ノ川と高須は
ベッドが隣り合わせだった。 旅も半ばを過ぎ高須は少々
疲れていた。 しかし、一方の矢ノ川は毎度の如く元気
いっぱい、修学旅行の中学生気分。 眠りにつこうとする
高須の体を揺さぶり
「おぉーい、もう寝るんか、今は旅行中やねんでぇ」
とはしゃぐ。 なんとか振り切ろうと高須は無視しつづけるが
「もっと、いっぱい話しようでぇー」
と矢ノ川は執拗に高須に迫る。
眠気を飛ばされ、いやいやながら高須が上体を起こし
振り返ってみた瞬間、
「ぐぉー、がぁー」
何と矢ノ川は、気持ちよさそうにいびきをかいて眠って
しまっていた。 なんという勝ってモン、なんという寝つきの
良さ。 一人残された高須は、高校時代から言いなれた
入魂の叫びをあげる。
「矢ノ川はいい―よなぁー」
今でこそ、ジャッカスの誇る宴会芸、矢ノ川・高須の
漫才コンビは、こうした日々のたゆまぬ努力から
生まれたのだ。
補足しておこう。
この夜、明け方になってやっと、うとうとし出した高須は、
早朝登山に向かうグループの騒々しさに、またしても眠りを
妨げられ、とうとう一睡も出来なかったそうだ。
あぁ、なんと厳しい摩周湖の夜。