連続短編小説   それゆけジャッカス
   その31   「ジャッカス、北北東に進路をとれ パート]」

 
 
  
     利尻からフェリーで戻った一行は、宗谷を廻り
     道東へと向かう。

      観光地めぐりは楽しい。  しかし、何日もいっしょに
     いると、なぜか身内の行動の方が面白くなってくる。
     ここらで、ちょっとご紹介。

      まずは神吉。  宗谷から、道東へ向かう道は
     一昨日と同じような海岸道路。  たまには交代と、
     彼がハンドルを握る。  まだ、免許取立てだった彼は
     法定速度を守り安全運転。  慣れてないから、スピー
     ドは出ない、これはしかたがない。  ジャッカス・コンボ
     イ、残りの2車も、あとについてぼちぼち走る。

      しかし、そこは北海道。  走り易い道なので、
     だんだん、みんなイライラしてくる。

      「おーい、神吉。 もうちょっと、はよー走れ」
 
      「後ろの車が迷惑するぞ」

     仲間内から、からかいはんぶんに声がかかる。
    
      そうこうしながら、しばらく走り。
     ふと、後ろを振り返ってびっくり仰天。
     曲がりくねった海岸道路、時折後ろの道が見える。
     良く見てみれば、延々とはるかかなたまで車の行列。

      「おーい、かっ、神吉。 もうちょっと、はよー走れ」

      「うっ、後ろの車が、迷惑してるぞー」

     あの時は、全員、あせったなぁ。

 
      車に関して、もう一件。

      道中の名所見物を終えて、一行の車は駐車場を
     発車した。  運悪く、そこは砂利が敷いてあった。
     岩本の車が小石を巻き上げ、テッチャンのセリカに
     降りかかる。

      と、突然、鬼の形相と化したテッチャンが、急発
     進して岩本の車を追いかける。  岩本が前走車を
     追い越そうとするのもお構いなし、更に右からかぶ
     せて前に出て、無理やり路肩に止めさせる。
     まるで映画のカー・チェイスだ。

      殴り合いとまではいかなかったが、あんなに怒っ
     たテッチャンを見たのは、後にも先にも、あれ一度きり。
      
     あの時も、全員、あせったなぁ。

      
      ついでにばかばかしいのも書いておこう。

      その年、北海道は冷夏で、涼しいを通り超えて寒
     かった。  メンバーの中に一人、夏の北海道なら、
     暑くもなく、寒くもなく快適だろうと思ったかどうかは
     しらないが、足元はスリッパ履き、バッグの中には
     下着と数枚のシャツ。  はおる上着はおろか、
     靴下さえも用意してこなかったやつがいた。 旅慣れ
     てなかったとはいえ、なんて無謀なやつだ。
      
      結局、オッチャンに靴下を借り、タオルをマフ
     ラー代わりに首に巻き、無け無しのワイシャツを
     上着代わりに背中にはおり、旅行を続けていた。

     あの時は、全員、あきれたなぁ。

      これが誰かは一目瞭然。  みんなアルバムを
    見てみよう。  最初から最後まで、スリッパを履いて
    どの写真でも、おんなじシャツを羽織ってるやつが
    いるから。    なぁんて、スカタンなやつだ。

     
        各人が独特の味を出しながら、
                   道内6日目が暮れてゆく。