連続短編小説   それゆけジャッカス
   その30   「ジャッカス、北北東に進路をとれ パート\」



 


     利尻島は当時、過激なヘルパーのいるユース・ホステ
    ルで有名だった。  若い人たちはみんな、そこに泊まっ
    て洗脳されて帰る。  ご多分に漏れず、ジャッカスも物見
    遊山でそこに泊まる。  はたして、そのハチャメチャ振りは
    筆舌に尽くしがたく、初々しさと羞恥心を残す、その頃の
    ジャッカスではとても太刀打ちできなかった。

     あの人達は地元の人だったのだろうか、それとも、
    どっかから流れ着いて、あそこが気に入り、そのまま
    居付いてしまったのだろうか。  厳寒の冬ともなれば、
    雪と氷の世界に閉ざされてしまう北の果て利尻で
    ひとときの夏に、一年分の喜びを爆発させるように
    生きている。     そんな暮らしもまた人生か。

     そんな人達のパワーをもらい、ジャッカスは自転
    車による島内一周を試みる。  

     「岬にあるすし屋まで行ったら、つらくても、
      戻ってきちゃ駄目よ。  そこが中間地点。
      どっちに行っても、もう道のりは同じだよ」

    元気づけているのか、笑かしてるのか解らんような声に
    送られ、いざ出発。 ここでもなぜか、右回り、左回りの
    2組に分かれる。  札幌での知性派、野性派を少し
    入れ替えて、テッチャン、岩本、オッチャン組と、高部、
    矢ノ川、神吉、高須、中谷組となる。
    

     チャリンコには、ちょっとうるさいテッチャンが、

     「自転車はペースを乱したらあかん、
      あとでえらい目にあうで」

    と、ペース配分を強調すれば、なにをちょこざいな、
    
      「僕ら、全然、べっちょないもんねぇ」

    と矢ノ川組がおちゃらける。  どうやら今度は几帳面組と、
    出たとこ勝負組に分かれたようだ。  それにしても、
    矢ノ川と中谷がいると、いっつもおおざっぱなチームに
    なるのはなぜなんだろう。 

     双方、それぞれのペースで前進する。  着実にテッチャ
    ン組が距離を稼げば、負けじと矢ノ川組も着実に道草を
    食う。  結局、戦前の予想どうり、テッチャン組がはる
    かに早く宿に帰りつき、その後、バテバテの矢ノ川組が
    倒れこむように戻ったのだが、この勝負はスピードだけ
    ではない。  各自アルバムを見て、どれくらい絵になった
    写真が撮れているかも良く検討しよう。  そう、おおざっ
    ぱな矢ノ川組は今回、芸術ポイントの高さに重きを置い
    たのだ。  

     明けて翌日。  筋肉痛の足を引きずりジャッカスは船で
    利尻島を後にする。  港には宿泊客を引き連れて、ヘル
    パー達がお見送り。  おなじみの歌と踊りで別れを惜しむ。
    北の孤島にすむ人達よ、寒さに負けずお達者で。

     よーし、それじゃ、元気良く。 あの歌をいってみようかぁ、

     
        「カッコイイやつが、カッコイイやつが
                   ふね―で、やーってきた」