連続短編小説   それゆけジャッカス
   その29   「ジャッカス、北北東に進路をとれ パート[」

 
 
     札幌を後にしたジャッカス・コンボイは、石狩を抜け、
    国道231号を北上する。  次なる目的地は稚内、
    道程350kmのハード・スケジュールだ。  左手に
    日本海を臨み、どこまでも続く海岸道路をひた走る。

     北海道は市街地を少し離れれば、すぐにゆったりと
    した自然に包まれる。  道は単調、廻りは広々。
    のんびりとした時間と景色が車窓を流れる。

     いま思えば不思議なもので、野郎同士が車の中、
    何時間も走りつづけて、いったい何を話していたの
    だろう。  女の子のことか?  試合でかっ飛ば
    したホームランのことか?  ジャッカス・メンバーの
    悪口に花が咲いたかもしれないし、ひょっとしたら
    将来の夢なんかも語り合ったかもしれない。
    日ごろ、お互いに顔を合わせてはいるが、ゆっくり
    語り合う機会は案外少ない。  こんな時間を持て
    るのも、旅の良さかもしれない。

     「みて―ん、めっちゃ、海きれいでぇ」

     「うっ、牛や、牛が歩いとる」

     「このあめちゃん、おいしいな」

    おまーら、人の話きいとんかいっ、まったく。

    終始一貫、脳天気なジャッカス。  明るい仲間を
    持って、私は本当に幸せです。 とほほ。

     海岸線を走りつづけたジャッカスは、本日の見所、
    サロベツ原生花園に到着する。  あいにく、少し
    季節が遅く、花のない湿原であった。  しかし、
    どんな事からでも楽しみを創り出すわれらの辞書に
    「退屈」 の文字はない。  

     見通しの良い湿原には道板が敷かれ、散策道が
    造ってあった。  よく見ると、それが1周100m位の
    周回コースとなっている。  右回りと左回りの2班に
    わかれ、ジャッカスはヨーイ・ドンで走り出した。
  
     コース上で行き会うと、ジャンケンで勝った方が
    さらに前進を続ける。  負けたチームは大急ぎで
    2番手が迎撃せんと走り出す。  どちらが先に
    スタート地点に行きつくか、 ジャンケン・バトルの
    始まりだ。  

     残念ながら、両チームともへばってしまい、勝敗の
    行方は、またの機会に持ち越されたが、あそこで
    あんなことをしたのは、今だかつて、我々だけで
    あろう。  なかなかやるもんだ。 えっへん。

     戦いすんで日が暮れて、一行は無事、稚内に
    たどり着く。  明日は朝一番の船で、利尻島に
    渡る予定だ。  寝過ごさないようにと、船着場の
    近くで野宿する。  ここでひとつ、眠りに就く前に
    我が相棒、テッチャンの隠れた素顔を披露しよう。

     車の中は窮屈なので、表でしばらく寝っ転がっていた。
    都会とは大違いで満天に星が見える。  テッチャンが
    あれや、これやと星座を指し、意外な一面を見せる。        
    しばらく眺めていると、流れ星も結構見られる。

     「流星なんか、珍しいもんやない。
      一晩見てれば、なんぼでもみられるで」

     「ふーん」

     「そんなんより。 見てみ、あんなやつもあるんや。
      あれの方が珍しい」

    指差す方を見てみれば、一瞬、小さく光った星が、
    ふっとそのまま消えてしまった。  流れ星がこちらに
    向かって、まっすぐ来るとそんな風に見えるらしい。
    名前を教わったが悪いけど、もう忘れてしまった。
 

           テッチャン、あの流星は何と呼ぶんだっけ?