連続短編小説   それゆけジャッカス
   その26   「ジャッカス、北北東に進路をとれ パートX」

 
 
 
   道内2日目の朝が来た。  再びジャッカス・コンボイは
   走り出す。  先頭、オッチャン・カリ―ナ、続いて岩本・
   ギャラン、しんがりをテッチャン・セリカがつとめる。 
   なかなか旅慣れた布陣だ。 

    なにせ、車の運転は人柄が表れる。  動きが遅い、
   球が遅い、喋るのが遅い、と三拍子揃ったドライバーが
   操る車を最後尾にすえようもんなら、あっという間に
   他車から遅れる・・・、もとい、
    先頭車は、もっとも安全運転で、後続車への気配りも
   忘れず、的確に地図を把握出来る者でなければならない。
   だから、先頭はオッチャン・カリ―ナなのだ。  そうだ、
   理由はそれだけだ。    本当にそれだけだって言っ
   てるでしょ。

    前から順に3人、3人、2人に分かれて乗り込む。 はて、
   確か9人ではなかったか?  さては、

    「岡田君ー、岡田君はどこや―」

   と慌てない。  こちらの書き違い。  都合で、この旅行に
   岡田君は参加していなかった。  心配はご無用。
 
 

    ところで、この振り分けを決める時、
   
    「中谷はテッチャンのセリカなぁ」

    「そう、そう。 テッチャンとずっといっしょにおれるのは
     中谷だけやから」

   とみんなが言っていたのは、どういうことだったのでしょう。
   そりゃ、テッチャンは

    「車を運転する時、スリッパは駄目やね。  やっぱり
     こういったサンダルが一番。  

     おい、おい、こんなスピードじゃ、プラグかぶってまうわ、
     この車、圧縮比高いねんで。

     コーナー・リングはアウト・イン・アウトが基本、ヒール・
     アンド・トゥーでミッションをシンクロさせるんや。
    
     やっぱりタイヤは165やね、グリップが違うよ。

     しまった、回転を合わし損ねた、今のコーナーはサードやな。

     あかん、リヤが滑ってる、カウンターを当てるのが
     遅かったか。  いまのん、わかる? 中谷さん」

   と専門用語を並び立て悦にいる。
   
    いー、天気やなぁ、とか。 景色がきれいだ―、とか
   思えへんねやろか?  この先、 ずっと、この調子なん
   やろか?  隣に座ってるのが 女の子でも、こんな風に
   車の話題ばっかりなんやろか? この人これで、大丈夫
   なんやろか?  と、ほんのちょっぴり思っただけで、根は
   いいやつなのに。  こういう人とはそれなりの付き合い方が
   あるものさ。

    万全な走行体制を保ちながら、一行は長万部、洞爺、
   支笏と快調に飛ばす。  時折、最後尾から

    「があぁー。 もう、圧縮比やら、ギヤ比やら、ドリフトなんか
     どうでもエー、たまには、ちゃう事しゃべれー」

    「やかましー。  乗したっとんねんど―。
     いややったら、降り―」 
 
    「こんなとこで降ろされてたまるかぁ。  おまえ、それでも
     人間かぁー」

    「ハンドル握っとんのはわしじゃー、ガタガタぬかすな―」     

       
   などと、楽しそうに大騒ぎする声が聞こえる。
   
 

    「テッチャンの隣は中谷」

   ジャッカス・コンボイの人員配置に、スキはない。