連続短編小説   それゆけジャッカス
   その            「ようこそ」 
 

    


    メンデルス・ゾーンだった。

   新婦に捧げる、祝いの歌に、ツーチャンの友達が選んだ歌は
  格調高いクラッシック。  おごそかな雰囲気が会場に流れる。  

   拍手、拍手、感動の嵐。  二人の未来に、幸多かれと願う
  この場に、これ以上ふさわしい歌はない。  しかし、ただ一組、
  この歌を、緊張の面持ちで聞いていたグループがいた。 我ら、
  ジャッカスである。

   オッチャンの結婚式にみんな呼ばれた。  我らのエース、
  オッチャンのお呼びだ。  めでたい、めでたい。  いちも
  にもなく、みんな出席する。  しかし、スピーチを頼まれて、
  はたと困った。  全員、いなかモン。  しゃれた話など出来は
  しない。  前の日の晩も、みんな、よってたかって相談したが、
  ちっとも話がまとまらない。  

   思えば、オッチャンが東京づとめから帰ってきて、久しぶりの
  宴会をした日、どうやら、嫁さんを見つけてきた、というとこ
  ろから、みんなおかしくなった。

   「オッチャンの彼女に電話しよーやぁ」

   「いやぁー、それはちょっと」

   あの時オッチャンがもっと強く断れば、あんな事には
  ならなかったのに。

   「なに、ゆーとーん。 はよ、電話して―ん」

   みんなの勢いに押されて、オッチャンが照れながら
  ダイヤルする。  その時、ジャッカスの宴会は、まさに
  たけなわ。  ただで済むわけがない。  あたふたする
  オッチャンをほったらかして、ごっきげんさんのジャッカスが
  暴走する。

   「テニスとピンポン、正解はどちらでしょう?」
  
   いきなり、答えを言って、それがクイズか?
  というやつや、
  
   「フランケン、俺に付いて来なぁー」

   とか、訳分からんこと言う輩とか、
  しまいには、

   「わったしはぁ、誰でしょう?」

   などと、初対面、しかも、電話でとんでもない事を言い出す
  男がいたりして、もう支離滅裂。  終わってみれば、延々 
  二時間。  よくも、、まあ、あんな電話したもんだ。 耐えた
  ツーチャンも只者ではない。
 
   そんないきさつがあるから、なおさらみんな緊張する。
  我々が嫌われるのはかまわない。 でも、友達がこんな人と
  オッチャンの値打ちが下がってはたまらない。

   絵になる事など出来ないが、取り出したのはジャッカスの帽子。
  みんなでそれを打ち振るい、言えた言葉がお粗末ながら、

   「フレー、フレー、隆利。
      頑張れ、頑張れ、規子」
 
 

   式が終わって一段落。   式場の前でたむろする
  ジャッカスのところへ オッチャンが出てきてくれた。
  みんなで胴上げをする。  分かってはいたが重たい。
  からかいながら、笑っているみんなのところに
  ツーチャンがやってきた。  

   「嫁さんも胴上げヤァー」
 
   と調子に乗るジャッカスの輪の中に、なんと、仰向けに
  飛びこんできてくれた。
 

              埼玉から、ようこそツーチャン