連続短編小説  それゆけジャッカス
   その20    「ジャッカスに足りないもの」

   


    大問題が生じた。 ジャッカスには決定的に足りない
   ものがあるというのだ。 それは一部のチームメートが
   気づき、やがてチーム全体に大きな不安の影を落とした。
    その影響力は、計り知れぬものがあり、あんなに
   熱心だった練習にも身が入らなくなった。 まして、
   試合などしようものなら相手チームにその致命的な
   欠点を見せつけられ、ジャッカスは絶望のどん底に叩き
   落された。

    いくら負けつづけても途絶えなかった 「笑い」 が
   影をひそめ、ジャッカスから持ち前の 「明るさ」 が
   失われて行く。

    「どこ、ほっとんや」

    「あのくらい、捕れよ」

    信じられないような罵声がグラウンドに響く。 あれほど
   鉄壁を誇ったチームワークにほころびが生じ、それは
   大きく深い溝となってチームを分断する。 このままでは
   駄目だ。

    追い詰められたジャッカスは幾度もミーティングを
   繰り返し、チームの立て直しを計る。

    「部費を値上げしたらどうや?」

    「ぜんぜん違う、そんな問題やない。 第一、罰金制度の
     おかげで金には困ってない。 康喜なんか、見送り三振、
     一回100円が怖くて無理やり空振りしてるやないか。
     50円安くなるだけやのに」

    「個人攻撃はやめろ、今はそんな場合じゃない」

    「実力アップを図ろう、そうすれば・・・・」

    「よせ、我々の主義を忘れたのか? そんな事をすれば
     ジャッカスがジャッカスでなくなる」

    「じゃぁ、どうすれば・・・」

    「とにかく、一人一人が努力してみようや、でないと
     このままでは解・・・」

    喉まで出かかった言葉をオッチャンがぐっとこらえる。
   そうだ、こんな事くらいで 「解散」 なんかしてたまるか。
   全員、八方手を尽くす、しかし、朗報はやってこない。
   ジャッカスにとってこれはあまりにも難題すぎる。 ほぼ、
   全員が手詰まりとなり、残すは矢ノ川ただ一人となった。

    「みんな、喜べ、なんとかなりそうや」

    彼の言葉にジャッカスは甦った、結成以来、はじめて
   迎えた存亡の危機を乗り越えたのだ。

    数日後、活気を取り戻したジャッカスのベンチに
   矢ノ川が見つけてきた女性マネージャーが座っていた。

    めでたし、めでたし。