連続短編小説  それゆけジャッカス
    
その7  「6番  ピッチャー 大西」
「うりゃっ」
 
 気合とともに彼の右腕から繰り出されるカーブはバッターの背中から
ブレーキ鋭く曲がりこみストライクゾーンをかすめキャッチャーのミット
に吸い込まれる。 
 
 
 ジャッカスのエース、 「おっちゃん」こと大西。 彼は高校の時から
おっちゃん、とよばれていた。 いや、僕との付き合いがその時代から
なので、 ひょっとしたらもっと昔からそう呼ばれていたのかもしれない。
本人は大西の 「お」 をとってオッチャンやと思っているかもしれないが
そんな事は断じてない、 彼は見た目でオッちゃんという愛称をもらっ
たのである。
 
 
 その名がしめすように彼はぽっちゃりしている。 動きも俊敏ではない。
喋り方ももっちゃりしている。 決してエースの称号を与えられるような
見た目ではない。 しかし天は二物を与えずで、こつこつと努力する堅
実なタイプである。 気配りもきくし、面倒見も良い。 チームメイトからの
信頼も厚く、 人物的にいって、この男にマウンドを託すのは当然だろう。
 
 
 試合中もたびたび後ろを振り返り、内外野にアウトカウントを伝え、ファ
ウルの打球を外野手が取りに行った時は、 守備位置に戻るまで間を取る。
動きはとろいが、どうして、どうして、立派なエースだ。 なに、 ただでさえ、
へたなのに、 こうでもしないとなんぼ点を取られるかわからん? 守備位
置もよく見とかんと、とんでもないところを守っとる?
 
 
 あー、 そおっ、 こんだけ持ち上げてるのにそんな風に言うわけ?
そんじゃぁ、言わしてもらいますけどね。 あんた、なにあのピッチング、
カーブは確かに曲がるわよ、 だけどね、普通、ストレートとカーブは
スピードの差が有るじゃない? あんたの球、どっちもいっしょよ、いっしょ。
 相手チームったら、なんて言ってるか知ってる?
 
 「あのピッチャーの球、キャッチャーの返球の方が速いな。」
 
 敵だけじゃないわよ。 この間なんか審判が試合の合間にネット裏で言っ
てたわよ。
 
 「次の試合、どこのチームや? ジャッカス? あぁ、 あの球の遅いピッ
チャーのとこか。」
 
 くやしいったらありゃしない。 あんたも男なら、もう少し速い球投げてみな
さいよ。 えっ、 球の遅いのは生まれつき?  いまさらじたばたしても
しょうがない? きぃー、 なに、おっとりかまえてるのよ。 もうすこしシャキ
シャキしなさい。  トロイことは牛でもするのよ。
 
 
    ジャッカスのエース、 5番 ピッチャー  大西
 
 
 物事に動じない男だ。