連続短編小説  功のそれゆけジャッカス
  その10   「9番  セカンド  高部」

     さて、いよいよジャッカス打線のしんがりを勤めるこの男の登場だ。
  そお、ジャッカスの中で誰よりも野球を愛する男、
     
    「9番  セカンド  高部」

   その情熱は彼を時として盲目にする。 野球が出来れば服装など
  どうでも良いのだろう。 彼の練習着は上下とも紺色のトレーナーだ。
  あれは中学校時分の体操服ではないのか?  いや、疑う余地はな
  い。 胸に白地の布が縫い付けられ、マジックでしっかり書かれてい
  るではないか、「高部」と。

   また、その激情は彼に時を忘れさせる。 小さな頃から野球がした
  かったのだろう、彼のバットはあまりにも細く短い。 あれは小学生
  用のバットではないのか?  いや、見誤るはずがない。 しっかりと
  描かれているではないか。 「ジャイアンツのマーク」が。

   そして、その熱意は彼を練習へと駆り立てる。 きっと陰で猛練習を
  しているに違いない、その自負がなければあんなにも毎回練習に参
  加できないはずだ。 目を覆いたくなるほどヘタクソなのに。

   彼の愛はチームメートにもくまなく注がれる。 
    
    「矢ノ川のグラブさばきは長島を彷彿させるなぁ」 
  
   「テッチャンのバットスィングは空気を切り裂く音がするなぁ」

   「岩本のスライディングは常人には真似できんなぁ」

   チームメートを誉めてなんの得になるのだろう?  いや、無粋な
  感ぐりはやめておこう、彼はあんなにも楽しそうではないか。

   ジャッカスはアマチュアだ。 強くなるにこしたことはないが、それ以
  前に野球というスポーツを楽しみ愛さねばならない。 その点におい
  てチームメートは胸を張ってこう言う。

    ジャッカスで最も野球を愛する男
          「9番  セカンド  高部」

   しかし、今日も、うれしそうに練習に来る彼を見てうつむいてこうさ
  さやく、

     「誰や、あいつ呼んだん」
 

    さて、ついに9人揃ったわれらジャッカス、
              その前途にはどんな波瀾が待ちうけているのか?
                                            乞御期待。