これまで辛抱強く読みつづけた人なら、もう
お気づきだろう。 実はジャッカスは弱い。
野球経験者はもちろん、運動で鳴らしたものなど
いない。 良き指導者がいるわけでもない。
何より目的が野球をやりたいということなので、
おのずとチームの方針から違ってくる。
強くなるには戦力になる人を入れ、チーム内で
競争が生まれなければいけない。 補欠が
出来るし、やめる者も出るだろう。 ジャッカス
ではそれはしない。 へたでもなんでもレギュラー
優先、野球がやりたいものからそれを奪う事は
しない。 仲良しチームと笑われてもかまわない、
勝ち負けだけがすべてではない。
そんなジャッカスだからシーズンオフはない。
あれはもう、12月になっていた。 草野球も
さすがに公式戦は行われていない。 まだまだ
野球をやりたいジャッカスは長楽寺グラウンドの
使用許可を持っていた。 無理とは思いつつ
「瀬戸」 に試合を申し込むと、どういうわけか
受けてくれた。
寒風吹きすさぶなか試合が始まった。 平均
年齢が高い 「瀬戸」 は無理もないが動きが
悪い。 一方ジャッカスはどういう訳かこの日に
限って調子がよい。 オッチャンが辛抱強くカウ
ントを立てなおす、いつもの様にファーボールを
連発しない。 内外野もぎりぎりのところでふん
ばっている、エラーが出ない。 ランナーを出し
ても相手に得点を与えない。
やがてジャッカスに待望の先取点が入った。
しかし、悲しいかないつもの事で、相手のエラー
絡みでなければ大量得点は望めない。追加点が
奪えない。 まさに虎の子の一点だ。
この最小得点を守らんと、更にオッチャンが
こらえる、バックスがそれに答える。
あと3回。 鋭い打球がサードを襲う、矢ノ川が
体に当ててボールを止める。 懸命の送球が
大きくそれる、テッチャンが身を挺してそれを
捕る。
あと2回。 高部がボールをファンブルする、
あきらめるな、まだ間に合う。 岩本がセカンドを
けん制する、いいぞ、ランナーはくぎ付けだ。
あと1回。 ヒットが内野を超えて来る、だけど
外野は抜かせるものか、セカンドなんかに行か
せない。
あと一人。 打球があがった、ウィニングボールだ。
捕った、アウトだ、ゲームセット。
いなか町、山のふもとのグラウンド。 見物客など
いやしない。 だけど負けっぱなしの我々がはじめて
つかんだ完封勝利。 思えばあれは25日。
いつまでたっても野球を続けるジャッカスに
サンタがくれた、一回限りの
「クリスマスプレゼント」
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