「野球のチームつくれへん?」
このひとことが、始まりだった。新快速の車中。声を掛けてきたのは 大西。高校の同級生で、現在、学部はちがうが、同じ大学に通っている 男である。 僕の名前は中谷。自宅から2時間半かけて電車通学をしている大学生。 確固たる目的があるわけでもなく、さりとてアウトローの道を歩むほどぶっ とんだ器でもなく、学業成績、中の下をかろうじてキープしている典型的な 日本の凡大学生である。 その日、たまたま帰りの電車で一緒になった大西は、現在、草野球の チームを結成しつつあること、このチームはユニフォームもつくって本格的 にやるつもりであること、ゆくゆくは、我々がすむ町の草野球連盟に参加し 公式戦に出ること、主要メンバーは僕の見知ったものであること、そして最 後に「ピッチャー、キャッチャー、センターのセンターラインなチームの要やから、 どおしても中谷の強肩が必要なんや。」 と、彼独特の穏やかだが、説得力のある話し振りで熱っぽく語った。 野球は好きやし、ちょっぴりだが打撃には自信がある。練習次第では そこそこの速球も投げられるだろうし、新しい世界への興味もある。何より ここまで言われたらこいつはいっちょうやらないかんかな? 「いつからやるの?」 「おっ、やってくれる? そおやなあ、、、、」 初練習日。勇んで約束の河川敷グラウンドにやって来た僕を待っていた ポジションは、ピッチャーマウンドを通り越え、遥かかなたの外野守備、 「センター。」 であった。 つづく |