語呂合わせで覚える百人一首
更新 2003年2月19日
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目次
1 語呂合わせで取る百人一首 ベスト20
2 語呂合わせで取る百人一首 モア27
3 無機的に覚える百人一首 6首
4 対比で意識する百人一首 13セット
5 残りの17首
「練習してみよう」へ
「百人一首」一覧と歌意 へ
1 語呂合わせで取る百人一首 ベスト20
84 ながら/牛
82 重い/うき
78 淡路/行くよ
67 春の/かい(春の貝)
74 憂かり/ハゲ
53 嘆き/イカ
46 由良/行く
60 大江/まだ(大江まだ?!)
77 瀬を/割れ
94 見よ/ふるさと
86 嘆け/過去
96 花誘う/ふり
5 奥山に/声聞く
2 春過ぎ/衣干す
48 風を/砕け
89 玉/忍ぶ
69 嵐/たつ
6 傘/白き
18 墨の/夢
24 この/紅葉
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2 語呂合わせで取る百人一首 モア27
97 来ぬ人を/焼く(なんか、こわー)
100 もも/なお余り(桃なお余り……桃がまだ余っている)
3 足/ながながし
79 秋風/もれいづる
32 山が/流れ
28 山里/ひと目
36 夏/雲の(「夏の雲」だと、「雲居にまがふ沖つ白波」と間違えやすい)
44 あう/人を or 大古ひとお ← 人の名前
45 あわれ/身の
55 滝の/名こそ(「滝の名」でもいいが、「なほうらめしきあさぼらけかな」に注意)
14 みち/乱れそめ
54 忘れじ/今日を
68 心に/恋し
63 今は/人づて
90 みせ/濡れ(店、濡れにぞ濡れし)
29 こころあてに/置き
12 天つ/乙女
23 月/わが身ひとつ
9 花の/わがみよ
43 あいみての/昔
27 みかの/いつみ(美香の逸美)
81 ほととぎす/ただ(ホット、タダ)
61 いにしえの/今日 (いにしえの今日子)
10 これ/知る
51 かく/さ(格差)
70 さ/いず(サイズ)
17 ちはや/から(千早から)
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3 無機的に覚える百人一首 6首
37 しら/つら
87 む/き
71 夕/葦
91 霧/ころ
4 田子/富士
22 吹く/むべ
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4 対比で意識する百人一首 13セット
21 今来ん/ありあけ
30 ありあけの/あかつき
93 世の中は/あま
83 世の中よ/山
85 夜も/寝や
62 夜を/よに
80 なかから/乱れて(「乱れそめにし」と区別)
35 人は/花ぞ
26 小倉/今みゆ (小倉みゆき)
(今ひとたびのみゆき待たなむ)
56 あらざらむ/今逢う
(今ひとたびの逢ふこともがな)
50 君が惜し/長く
(君がため惜しからざりし命さへ)
15 君がはる/わが衣手に
(君がため春の野にいでて若菜摘む)
1 秋の/わが衣手は
11 わた やそ/人には
(わたの原やそ島かけて漕ぎいでぬと)
76 わた 漕ぎ/雲居
(わたの原漕ぎいでてみれば久方の)
31 朝 あり/よし
(朝ぼらけありあけの月と見るまでに)
64 朝 宇治/あら
(朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに)
47 八重/ひと 見えね
(人こそ見えね秋は来にけり)
92 わが袖は/人 知らね
(人こそ知らね乾く間もなし)
16 立ち/待つと
34 たれを/待つも
73 高砂の/とやま
20 詫び/身を尽くしても (わB/3つも)
88 難波江の/身を尽くしてや(難波えーのー、身を尽くしてや ←大阪弁で)
19 難波が/あわで (難波が泡で… ← 難波潟…逢はでこの世を…)
8 わがいおは/世をうじやま
99 人も/世を思う
95 おおけなく/わが立つ
40 忍ぶ/もの
41 恋す/人知れず
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5 残りの17首
59 やすらわで/かたぶく (やす/かた)(安/かった)
38 忘らるる/人の命
39 浅茅/余り
65 恨み/恋に
7 天の/三笠
13 つく/恋ぞ
25 名にし/人にし
42 契りき/末 (ちぎりき/す)
57 め/雲隠れ
58 有馬/いで
66 もろ/花よ
72 音に/賭け
98 風そよぐ/みそ
33 ひさ/しづ心
49 みかき/昼は
52 明け/なお恨めし
75 契りを/あわれ
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練習してみよう
◆瞬間的に上(かみ)の句が言えますか?
(句の番号をクリックして確認してみましょう)
あかつきばかり | 30 |
あしのまろやに | 71 |
あはでこのよを | 19 |
あはれことしの | 75 |
あまのをぶねの | 93 |
あまりてなどか | 39 |
あらはれわたる | 64 |
ありあけのつきを | 21 |
いかにひさしき | 53 |
いくよねざめぬ | 78 |
いづこもおなじ | 70 |
いつみきとてか | 27 |
いでそよひとを | 58 |
いまひとたびのみゆき | 26 |
いまひとたびのあふこと | 56 |
うきにたへぬは | 82 |
うしとみしよぞ | 84 |
おきまどはせる | 29 |
かけじやそでの | 72 |
かこちがほなる | 86 |
かたぶくまでの | 59 |
かひなくたたむ | 67 |
からくれなゐに | 17 |
きりたちのぼる | 87 |
くだけてものを | 48 |
くもがくれにし | 57 |
くものいづこに | 36 |
くもゐにまがふ | 76 |
けふここのへに | 61 |
けふをかぎりの | 54 |
こひしかるべき | 68 |
こひぞつもりて | 13 |
こひにくちなむ | 65 |
ころもかたしき | 91 |
ころもほすてふ | 2 |
こゑきくときぞ | 5 |
さしもしらじな | 51 |
しづごころなく | 33 |
しのぶることの | 89 |
しるもしらぬも | 10 |
しろきをみれば | 6 |
すゑのまつやま | 42 |
ただありあけの | 81 |
たつたのかはの | 69 |
つらぬきとめぬ | 37 |
とやまのかすみ | 73 |
ながくもがなと | 50 |
ながながしよを | 3 |
ながれもあへぬ | 32 |
なこそながれて | 55 |
なほあまりある | 100 |
なほうらめしき | 52 |
ぬれにぞぬれし | 90 |
ねやのひまさへ | 85 |
はげしかれとは | 74 |
はなぞむかしの | 35 |
はなよりほかに | 66 |
ひとこそしらね | 92 |
ひとこそみえね | 47 |
ひとしれずこそ | 41 |
ひとづてならで | 63 |
ひとにしられで | 25 |
ひとにはつげよ | 11 |
ひとのいのちの | 38 |
ひとめもくさも | 28 |
ひとをもみをも | 44 |
ひるはきえつつ | 49 |
ふじのたかねに | 4 |
ふりゆくものは | 96 |
ふるさとさむく | 94 |
まだふみもみず | 60 |
まつとしきかば | 16 |
まつもむかしの | 34 |
みかさのやまに | 7 |
みそぎぞなつの | 98 |
みだれそめにし | 14 |
みだれてけさは | 80 |
みのいたづらに | 45 |
みをつくしても | 20 |
みをつくしてや | 88 |
むかしはものを | 43 |
むべやまかぜを | 22 |
ものやおもふと | 40 |
もみぢのにしき | 24 |
もれいづるつきの | 79 |
やくやもしほの | 97 |
やまのおくにも | 83 |
ゆくへもしらぬ | 46 |
ゆめのかよひぢ | 18 |
よしののさとに | 31 |
よにあふさかの | 62 |
よをうぢやまと | 8 |
よをおもふゆゑに | 99 |
わがころもでに | 15 |
わかころもでは | 1 |
わがたつそまに | 95 |
わがみひとつの | 23 |
わかみよにふる | 9 |
われてもすゑに | 77 |
をとめのすがた | 12 |
百人一首 一覧と歌意(番号順 歴史的仮名遣い 訳:前川)
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◆1番
あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わかころもでは つゆにぬれつつ
秋の田の仮小屋の苫ぶき屋根の編み目が粗いので、夜の番をする私の衣の袖は、露に濡れ続けるよ。
《天智天皇》……第38代天皇
◆2番
はるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかぐやま
春が過ぎて夏が来たらしい。夏になると真っ白い衣を干すというあの天の香具山に衣が干されているよ。
《持統天皇》……第41代天皇(女帝)
◆3番
あしびきの やまどりのをの しだりをの ながながしよを ひとりかもねむ
山鳥の長く垂れた尾のように、長い長い夜をわたしはひとりさびしく寝るのだろうか。
《柿本人麻呂》
◆4番
たごのうらに うちいでてみれば しろたへの ふじのたかねに ゆきはふりつつ
田子の浦に出て遠くを見やると、真っ白な富士の高い峰に雪が降り積もっているよ。
《山部赤人》
◆5番
おくやまに もみぢふみわけ なくしかの こゑきくときぞ あきはかなしき
奥山で、紅葉を踏み歩いて、鳴く鹿の声を聞くとき、秋は悲しく感じられるよ。
《猿丸大夫》
◆6番
かささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける
七夕の夜、かささぎが翼を連ねて天の川に橋をかけ渡すという。その伝説を連想させる宮中の階段に、霜が真っ白に降りているのを見ると、ああ夜が更けたのだなあと実感するよ。
《中納言家持(大伴家持(おおとものやかもち))》
◆7番
あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも
大空をはるか遠く見やると月が見える。あの月は、私が日本にいたとき、春日にある三笠の山に出ていたのと同じ月なのだなあ。
《安倍仲麻呂》
◆8番
わがいほは みやこのたつみ しかぞすむ よをうぢやまと ひとはいふなり
わたしの仮小屋は京の都の東南にあって、「しか」と(=このように心安らかに)住んでいる(鹿も住んでいる)。それなのに、世の中を「うし(=つらい)」と思って、逃れて住んでいる「宇治」山と人は言っているようだ。
《喜撰法師》
◆9番
はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに
美しかった花はむなしく色あせてしまいました、長雨が降りつづいていたあいだに。その花のようにわたしの容色も衰えてしまいました、むなしく世を過ごして、物思いにふけっていたあいだに。
《小野小町》
◆10番
これやこの ゆくもかへるも わかれては しるもしらぬも あふさかのせき
これがまあ、旅立つ人も帰る人も、知っている人も知らない人も、逢っては別れ、別れては逢う、という「逢坂の関」なのだなあ。
《蝉丸》
◆11番
わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりふね
大海原のたくさんの島々を目ざして船を漕ぎだしていったと、あの人には知らせてほしい。漁師の釣舟(=釣りをするための舟)よ。
《参議篁(小野篁(おののたかむら))》
◆12番
あまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ をとめのすがた しばしとどめむ
空を吹く風よ、雲の中の天女の帰り道をふさいでほしい。天に昇ろうとする美しい天女 の姿をもうしばらくとどめていたいから。
《僧正遍昭》
◆13番
つくばねの みねよりおつる みなのがは こひぞつもりて ふちとなりぬる
筑波山の峰から落ちる水が集まってみなの川の淵となる、そのように私の恋心が積もって、こんなにも深いものになったのです。
《陽成院》……第57代天皇
◆14番
みちのくの しのふもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに
みちのくの「しのぶもじ摺り」の布の乱れ模様のように、私の心も乱れ始めてしまったことです。誰のせいで? 私のせいではないのに。みんなあなたのせい。
《河原左大臣(源融(みなもとのとおる))》
◆15番
きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ
あなたのために、と、新春の野に出て若菜を摘むわたしの袖に、雪はしきりに降りかかることであるよ。
《光孝天皇》……第58代天皇
◆16番
たちわかれ いなばのやまの みねにおふる まつとしきかば いまかへりこむ
あなたと別れて任国の因幡に行くけれど、その国の稲葉山の峰に生えている松、その「まつ」ではないが、あなたがわたしのことを「まつ」ていると聞いたならば、すぐに帰って来ましょう。
《中納言行平(在原行平)》
◆17番
ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みずくくるとは
不思議なことが多かったという神の時代にも聞いたことがない、竜田川で水をこのように真っ赤に「くくり染め」にするということは。
《在原業平(ありわらのなりひら)朝臣》
◆18番
すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ
住の江の岸に寄せる波、その「よる」ではないが、「夜」、夢で逢う通い路でさえ、どうしてあなたは、人目を避けようとなさるのでしょう。
《藤原敏行朝臣》
◆19番
なにはがた みじかきあしの ふしのまも あはでこのよを すぐしてよとや
難波潟に生えている蘆の短い節と節との間、そのように短い時間も逢わないで、この世を過ごせとおっしゃるのですか。
《伊勢》
◆20番
わびぬれば いまはたおなじ なにはなる みをつくしても あはむとぞおもふ
二人の関係が露見して批判を浴びてつらいので、今はもう会うのをがまんしてもつらいのは同じこと、難波にある「澪標(=水路標識)」のように、「身を尽くし」破滅してでもあなたに逢おうと思います。
《元良(もとよし)親王》
◆21番
いまこむと いひしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな
「すぐ行きます」とおっしゃったばかりに(待ち続けて)、とうとう九月の夜明けの月が出るまで待ち通してしまいましたよ。
《素性(そせい)法師》
◆22番
ふくからに あきのくさきの しをるれば むべやまかぜを あらしといふらむ
吹くと同時に秋の草木がしおれるので、なるほどそれで山から吹きおろす風を「荒らし(=嵐)」というのだろう。
《文屋康秀(ふんやのやすひで)》
◆23番
つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど
月を見ると千々に心が乱れて悲しい。私一人のためにやってくる秋ではないのに。
《大江千里(おおえのちさと)》
◆24番
このたびは ぬさもとりあへず たむけやま もみぢのにしき かみのまにまに
このたびの旅は、急で、捧げ物も用意できずやってきました。手向山の神よ、この錦のように美しい紅葉をささげ物のかわりに御心のままにお受け取りください。
《菅家(菅原道真)》
◆25番
なにしおはば あふさかやまの さねかづら ひとにしられで くるよしもがな
「逢う」「さ寝」という名を持っているのなら「逢坂山のさねかずら」よ、手を貸してほしい。そのさねかずらを手繰るように、人に知られないであなたに逢う方法があればなあ。
《三条右大臣(藤原定方)》
◆26番
をぐらやま みねのもみぢば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなむ
小倉山の峰の紅葉よ、おまえに風流がわかるなら、もう一度の天皇の行幸を、このまま散らないで待っていてくれ。
《貞信公(藤原忠平)》
◆27番
みかのはら わきてながるる いづみがわ いつみきとてか こひしかるらむ
みかの原を分けて湧いて流れるいづみ川、その「いつみ」の語ではないが、あの人を「いつ見」たというので、こんなにも恋しいのだろうか。
《中納言兼輔(藤原兼輔)》
◆28番
やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへば
山里は、冬がひとしお寂しく感じられるよ。人の訪れもとだえ、草も枯れてしまうと思うと。
《源宗于(みなもとのむねゆき)朝臣》
◆29番
こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな
あて推量に折るなら折ってみようか。初霜がまっ白に下りて、どこが花でどこが霜かと見る人を困らせる白菊の花を。
《凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)》
◆30番
ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし
明けがたの月が無情に残り、あなたも冷たく感じられたあの朝の別れ以来、夜明けほどつらいものはなくなったことです。
《壬生忠岑(みぶのただみね)》
◆31番
あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき
夜明けごろ、残月の光かと見まちがえるばかりに、吉野の里に降り積もっている白雪であるよ。
《坂上是則(さかのうえのこれのり)》
◆32番
やまがはに かぜのかけたる しがらみは ながれもあへぬ もみぢなりけり
山の中の川に風が作った堰(せき)、それは流れようとして流れられないでせき止めている紅葉であることだ。
《春道列樹(はるみちのつらき)》
◆33番
ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しづごころなく はなのちるらむ
日の光がのどかな春の日に、落ちついた心もなく、なぜ桜の花は散り急ぐのだろうか。
《紀友則》
◆34番
たれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしの ともならなくに
誰を友にしたらよいのだろうか、友は皆故人になってしまって。長寿で知られる「高砂の松」も昔からの友ではないのだから。
《藤原興風(おきかぜ)》
◆35番
ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける
あなたの心の内はさあどうかわかりません。が、昔なじみのこの土地で、花だけは昔のままの香で匂っていることです。
《紀貫之》
◆36番
なつのよは まだよひながら あけぬるを くものいづこに つきやどるらむ
夏の夜は短くて、まだ宵だと思っているうちに明けてしまった。沈む暇もない月は、いったい雲のどのあたりに隠れているのだろうか。
《清原深養父(ふかやぶ)》……清少納言の曾祖父
◆37番
しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける
風が露にしきりに吹きつける秋の野は、まるで、つなぎとめていない真珠が乱れ散ったようだ。
《文屋朝康(ふんやのあさやす)》
◆38番
わすらるる みをばおもはず ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな
忘れられるこの身のつらさは何とも思いません。それより、「心変わりしない」と誓ったあなたの命が、神罰で失われるのではないかと、それが惜しく思われてなりません。
《右近》
◆39番
あさぢふの をののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこひしき
浅茅が茂る野の篠竹の原、その「しの」の語のように、堪え「しの」んできたが、その想いは今はもうあふれるほどになって、どうしてこんなにもあなたが恋しいのだろう。
《参議等(さんぎのひとし)(源等(みなもとのひとし))》
◆40番
しのぶれど いろにいでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで
今まで忍んできたが、とうとう表面に表れてしまったことだよ、私のあの人への想いは。「恋の病でも?」と、人が尋ねるほどに。
《平兼盛》
◆41番
こひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか
私が恋をしているといううわさは、早くも立ってしまったよ。誰にも知られないように、ひっそりと思い始めたのだったけれど。
《壬生貞見(みぶのただみ)》
◆42番
ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すゑのまつやま なみこさじとは
約束しましたよね。お互いに涙で濡れた袖をしぼりながら、「『末の松山』を波が越えることがないように、二人の心も変わらないでいよう」と。それなのに。
《清原元輔(きよはらのもとすけ)》……清少納言の父
◆43番
あひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり
あなたと一夜を共にして別れてからの、逢いたくてたまらない気持ちに比べると、それ以前は、思い悩みなどしたうちには入らなかったとわかったことです。
《権中納言敦忠(藤原敦忠(あつただ))》
◆44番
あふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし
逢うことがまったくなかったなら、かえって、あの人の無情も自分の不幸も恨みはしなかったでしょうに(一度逢ったからこそ、つらく思われるのです)。
《中納言朝忠(藤原朝忠(あさただ))》……藤原定方(→25番)の子
◆45番
あはれとも いふべきひとは おもほへで みのいたづらに なりぬべきかな
「かわいそうに」と言ってくれそうな人も思いあたらないまま、このままむなしく死んでしまうにちがいないことです。
《謙徳公(摂政太政大臣藤原伊尹(これただ))》
◆46番
ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな
由良の水門を漕ぎ渡る舟人が、舵を失って行く先もわからず漂うように、この先どうなるのか見当もつかない恋の道であることよ。
《會禰好忠(そねのよしただ)》
◆47番
やへむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり
雑草が幾重にも生い茂ったこの家はひっそりとさびしく、ここを訪れる人などまったくないが、それでも秋だけはやってきたことだよ。
《恵慶(えぎょう)法師》
◆48番
かぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな
風が強いので、岩に打ち寄せる波が砕けて散る、その波のように、わたしも心が千々に砕けて思い悩むこのごろです、冷たいあの人のせいで。
《源重之》
◆49番
みかきもり ゑじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもへ
宮中の御門を守る衛士の焚くかがり火が、夜は赤々と燃え昼は消えているように、私も、夜は恋いこがれ昼は心も消えるほど、恋の物思いをしていることです。
《大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)朝臣》
◆50番
きみがため をしからざりし いのちさへ ながくもがなと おもひけるかな
あなたに逢うためには惜しくないと思っていたこの命ですが、逢えた今は、このまま長くあってほしいと思うようになったことです。
《藤原義孝》……藤原行成(三蹟(さんせき=三人の名書家)の一人)の父
◆51番
かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを
「これほど(想っています)」とだけでも言えるでしょうか(言えません)。いぶき山の「さしも」草(=よもぎ)ではないけれど、「さしも(=それほど)」とはご存じないでしょうね。この燃える「想ひ」の「火」を。
《藤原実方(さねかた)朝臣》
◆52番
あけぬれば くるるものとは しりながら なほうらめしき あさぼらけかな
夜が明ければ暮れる(また逢える)とはわかっているけれど、やはり恨めしい夜明けであるよ。
《藤原道信朝臣》
◆53番
なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
嘆きながら一人で寝る夜は、夜明けまでの時間がどんなに長いか、あなたはおわかりにならないでしょうね。
《右大将(藤原)道綱母(みちつなのはは)》……蜻蛉日記の作者
◆54番
わすれじの ゆくすゑまでは かたければ けふをかぎりの いのちともがな
「忘れないよ」とあなたは言ったけれど、永遠に心変わりしないことは難しいでしょうから、お逢いできた今夜限りで死んでしまいたいものです。
《儀同三司母(ぎどうさんしのはは)》……藤原伊周(これちか=儀同三司)の母
◆55番
たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ
滝の音がしなくなってから長い年月がたったけれど、すばらしい滝だったという名声だけは世間に流れ、今でもまだ聞こえてくるよ。
《大納言公任(藤原公任(きんとう))》
◆56番
あらざらむ このよのほかの おもひでに いまひとたびの あふこともがな
わたしは死んでしまいそうですが、あの世への思い出に、もう一度だけあなたにお逢いしたいものです。
《和泉式部(いずみしきぶ)》……小式部内侍(→60番)の母
◆57番
めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よはのつきかな
やっと見たのに、見たかどうかもわからないうちに雲に隠れてしまった夜の月。そのように、久しぶりに会ったのに会ったかどうかもわからないうちに姿を消してしまったあなたでしたよ。
《紫式部》……『源氏物語』の作者
◆58番
ありまやま ゐなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする
有馬山から猪名の笹原に風が吹いてくると、笹がそよそよとそよぐ、そのように、心が「そよ」いでいるのは、いえいえ、あなたのほうで、そうですよ、私はあなたを忘れたりはしませんよ。
《大弐三位(だいにのさんみ)(藤原賢子(けんし))》…紫式部の娘
◆59番
やすらはで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな
(あなたが来ないとわかっていたら)ためらわずに寝てしまったでしょうに、(ずっと待っていたので)西の空に傾くまで月を見て朝を迎えることになってしまいましたよ。
《赤染衛門(あかぞめえもん)》
◆60番
おほえやま いくののみちの とほければ まだふみもみず あまのはしだて
大江山を越え生野を越えてゆく道のりは遠いので、まだ天の橋立を踏んだことはなく、(丹後の母からの)手紙もまだ見ていません。
《小式部内侍(こしきぶのないし)》……和泉式部の娘
◆61番
いにしへの ならのみやこの やへざくら けふここのへに にほひぬるかな
古都奈良の都に咲いていた八重桜。今日はこのように、京の九重(=宮中)のこの辺りで色美しく咲いていることです。
《伊勢大輔(いせのたいふ)》……大中臣能宣(→49番)の孫
◆62番
よをこめて とりのそらねは はかるとも よにあふさかの せきはゆるさじ
夜の明けないうちに鶏の鳴きまねでだまそうとしても、逢坂の関は決して開かないでしょう。そのように、私もうっかりごまかされてあなたに逢うことはしませんよ。中国の函谷関は鶏の鳴きまねにだまされて開いたそうですけどね。
《清少納言》……『枕草子』の作者
◆63番
いまはただ おもひたえなむ と ばかりを ひとづてならで いふよしもがな
今となってはただ、「あなたのことは忘れます」という一言だけでも、人づてでなく会って言う方法があればなあ。
《左京大夫(さきょうのだいぶ)道雅(藤原道雅)》
◆64番
あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに あらはれわたる せぜのあじろぎ
夜が明けるころ、宇治川の霧がだんだんとぎれてきて、その切れ目からあちこちの瀬にかけられた網代(=しかけ)の杭が現れてくることだよ。
《権中納言定頼(藤原定頼)》
◆65番
うらみわび ほさぬそでだに あるものを こひにくちなむ なこそをしけれ
恨み嘆いて涙に濡れ、乾く暇もないわたしの袖でさえ朽ちないであるのに、実らぬ恋のために(立つ色恋の噂で)、名が朽ちてしまう(=私の評価が下がってしまう)のが悲しいのです。
《相模(さがみ)》
◆66番
もろともに あはれとおもへ やまざくら はなよりほかに しるひともなし
私と同じようにおまえも私のことを懐かしく思ってくれ、山桜よ。花であるおまえ以外に、私の心を知る人もいないのだから。
《前大僧正行尊(さきのだいそうじょうぎょうそん)》
◆67番
はるのよの ゆめばかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ
短い春の夜の夢のように短い間のこととはいえ、あなたの手枕で眠ったりすれば、根も葉もないうわさが立つでしょう。それは私にとって残念なことですから。
《周防内侍(すおうのないし)》
◆68番
こころにも あらでうきよに ながらへば こひしかるべき よはのつきかな
本意ではないが、つらいこの世に生きながらえるなら、それでもきっと恋しく思い出されるに違いない、今夜の月であることよ。
《三条院》……第67代天皇
◆69番
あらしふく みむろのやまの もみぢばは たつたのかはの にしきなりけり
嵐のために散り乱れた三室山の紅葉は、また、竜田川に流れ込んで川面いっぱいに浮かぶ。それはまるで川でさらされる錦の布のようであるよ。
《能因法師》
◆70番
さびしさに やどをたちいでて ながむれば いづこもおなじ あきのゆふぐれ
さびしさのために家から出て、あたりを眺めていると、どこからどこまで同じようにさびしい秋の夕暮れであることよ。
《良暹(りょうぜん)法師》
◆71番
ゆふされば かどたのいなば おとづれて あしのまろやに あきかぜぞふく
夕方になると、門前の田の稲の葉に秋風が吹いてきて、その秋風は蘆葺きの仮小屋にも吹きつけ、吹き過ぎていくことであるよ。
《大納言経信(源経信(みなもとのつねのぶ))》
◆72番
おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ
有名な高師の浜のいたずらに立つ波はこの袖にかけないようにしましょう、袖が濡れると困りますから。そのように、浮気者で名高いあなたは近づけないようにしましょう、悲しみの涙で袖が濡れると困りますから。
《祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)》
◆73番
たかさごの をのへのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなむ
遠くの高い山の峰の桜が美しく咲いたよ。近い山の霞よ、どうか立たないでほしい。あの桜の花が隠れてしまうから。
《権中納言匡房(大江匡房(おおえのまさふさ))》
◆74番
うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを
冷たいあの人が私にやさしくなるように、と初瀬の観音様にお祈りしたのに。その初瀬の山風よ。おまえのようにますます激しく吹き荒れるように、とは願わなかったのに。
《源俊頼朝臣》
◆75番
ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり
約束してくださった、させも草(よもぎ)の葉に下りる露のような、はかないお言葉を命の綱と頼りにしているうちに、ああ、今年の秋も空しく過ぎてしまうようです。
《藤原基俊》
◆76番
わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもゐにまがふ おきつしらなみ
大海原に船を漕ぎ出して見ると、雲と見まちがえるばかりに、沖には白い波が立っていることだ。
《法性寺(ほっしょうじ)入道前(さきの)関白太政大臣(藤原忠通(ただみち))》
◆77番
せをはやみ いはにせかるる たきがはの われてもすゑに あはむとぞおもふ
川の流れが速いので岩にさえぎられた滝川の水が、分かれてものちには合流するように、(愛するあの人と)一度は別れてもまた再び一緒になろうと思う。
《崇徳院(すとくいん)》……第75代天皇
◆78番
あはぢしま かよふちどりの なくこゑに いくよねざめぬ すまのせきもり
淡路島から渡ってくる千鳥の鳴く声に、いったい幾夜目が覚めただろうか。昔の須磨の関守は。
《源兼昌》
◆79番
あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ
秋風に吹かれてたなびいている雲のとぎれ目から洩れ出してくる月の光の、何と澄んで明るいことよ。
《左京大夫顕輔(藤原顕輔(あきすけ))》
◆80番
ながからむ こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもへ
いつまでも愛してくださるかどうか、あなたのお心はわかりませんから、一夜をともにした今朝わたしの長い黒髪が乱れているように、心も乱れて物思いに沈んでいます。
《待賢門院堀河(たいけんもんいんのほりかわ)》
◆81番
ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる
ほととぎすが初めて鳴いたその方向を見てみると、もうその姿はなく、ただ有明の月が西の空に残っていただけだったよ。
《後徳大寺左大臣(藤原実定(さねさだ))》
◆82番
おもひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり
思い嘆いても、それでも命は「堪えて(=こらえて)」あるのに、つらさに堪えきれずこぼれるのは涙であったことだ。
《道因法師(藤原敦頼(あつより))》
◆83番
よのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかぞなくなる
世の中というものは、つらさから逃れる道はないのだなあ。ここならと望んで分け入ったこの山の奥にも、鹿が悲しそうに鳴いているようだ。
《皇太后宮大夫俊成(藤原俊成)》……藤原定家の父
◆84番
ながらへば またこのごろや しのばれむ うしとみしよぞ いまはこひしき
生きながえるなら、(つらいと感じている)現在もまた、なつかしく思い出されるのだろうか。つらい、苦しいと思いながら過ごしていた昔が、今となっては恋しいのだから。
《藤原清輔(きよすけ)朝臣》
◆85番
よもすがら ものおもふころは あけやらで ねやのひまさへ つれなかりけり
一晩中、恋の物思いに悩むこのごろは、なかなか夜が明けないで、(あの人だけでなく、いつまでも白んでこない)寝室の戸の隙間までもが、つれなく感じられるよ。
《俊恵(しゅんえ)法師》……鴨長明の和歌の師
◆86番
なげけとて つきやはものを おもはする かこちがほなる わがなみだかな
「嘆け」と言って、月がわたしに物思いをさせるのだろうか。いや、あの人のせいだ。それなのに、月に向かって恨み顔になり、頬を伝うわたしの涙であることよ。
《西行(さいぎょう)法師》……『山家集』の作者
◆87番
むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ
秋のにわか雨で残った露もまだ乾ききっていない常緑樹の葉のあたりに、うっすらと霧が立ち昇る、幽寂な秋の夕暮れ時であることだ。
《寂蓮(じゃくれん)法師》
◆88番
なにはへの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるべき
難波江の蘆の刈り根の「ひとよ(=一節)」、その「ひとよ」ではないが、「ひとよ(=一夜)」「かりね(=仮寝=かりそめの共寝)」をしたばかりに、あの澪標(みおつくし=船の水路標識)のように「身を尽くし」て、恋い続けることになるのでしょうか。
《皇嘉門院別当(こうかもんいんのべっとう)》……源俊隆の娘
◆89番
たまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よはりもぞする
わたしの命よ、絶えるならいっそ絶えてしまえ。このまま生きながらえていると、堪え忍ぶ力が弱って(秘めた恋心が表面に表れて)しまうかもしれないから。
《式子(しょくし、しきし)内親王》
◆90番
みせばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず
お見せしたいものですね。あの松島の雄島の海人の袖でさえ、濡れに濡れても色は変わらないというのに、わたしの袖は流した(血の)涙で色が変わってしまいました。
《殷富門院大輔(いんぷもんいんのたいふ)》
◆91番
きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ
こおろぎが鳴く霜の降る夜。寒々とした敷物の上に、衣の片袖を敷いて、ひとりさびしく寝るのだろうか。
《後京極摂政前太政大臣(藤原良経)》
◆92番
わがそでは しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし
わたしの着物の袖は、引き潮の時でさえ水中に隠れて見えない沖合の石のようなもの。あの人は知らないけれど、涙に濡れて乾く間もありません。
《二条院讃岐(さぬき)》
◆93番
よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのをぶねの つなでかなしも
世の中はいつもこうであってほしいよ。この波打ち際を漕いでゆく漁師の小舟が綱手に引かれる光景がしみじみ心を打つことだよ。
《鎌倉右大臣(源実朝)》……『金槐和歌集』の作者
◆94番
みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
吉野の山には秋風が吹き、夜が更けるにつれて古都吉野は冷え込み、その寒々とした空気の中、衣を打つ音が聞こえてくる。
※布を打つ…艶を出したり、柔らかくしたりするため
《参議雅経(藤原雅経)》
◆95番
おほけなく うきよのたみに おほふかな わがたつそまに すみぞめのそで
身の程もわきまえずに、憂き世の民の上に覆いかけるよ、この杣山(比叡山)に「住み初め」た私の、この「墨染(=法衣)」の袖を。
《前大僧正慈円》……藤原忠通(→76番)の子
◆96番
はなさそふ あらしのにはの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり
桜の落花を誘う嵐の吹く庭に、雪のように花びらが降る。その「ふる」という言葉ではないが、「ふり(降り・古り)ゆく」ものは雪(=桜の花)ではなく、わが身であったことだ。
《入道前太政大臣(藤原公経(きんつね))》
◆97番
こぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに やくやもしほの みもこがれつつ
いくら待ってもやって来ない冷たい人を、「松」帆の浦の夕暮れ時、ずっと「待つ」。夕凪の中で焼く藻塩(=海藻から採る塩)のように、わたしもあなたに恋い「焦がれ」ながら。
《権中納言定家(藤原定家)》
◆98番
かぜそよぐ ならのをがはの ゆふぐれは みそぎぞなつの しるしなりける
風が楢の葉にそよぐ、ならの小川(=上賀茂神社のみたらし川)のあたりの夕暮れは、すでに秋の気配を感じさせるが、六月祓(みなづきばらえ)のみそぎをしているのだけが夏であることのしるしであるよ。
※六月祓…陰暦6月30日に行われる神事。新暦では8月上旬〜下旬ごろにあたる。
《従二位家隆(藤原家隆)》
◆99番
ひともをし ひともうらめし あぢきなく よをおもふゆゑに ものおもふみは
人が、いとおしくも、また恨めしくも思われる。この世をおもしろくないと思うがゆえにあれこれ思い悩むこのわたしには。
《後鳥羽院(ごとばいん)》……第82代天皇
◆100番
ももしきや ふるきのきばの しのぶにも なほあまりある むかしなりけり
宮中の古い建物の軒の端に生えている忍ぶ草、その「忍ぶ」ではないが、「偲(しの)」んでも「偲」びつくせない、なつかしい昔であることよ。
《順徳院》……第84代天皇
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