傾国

枢木日記

11/20

 今日、シャーリーに、今週末の休みに河口湖に遊びに行かないかと誘われました。軍務があるので断りましたが、誘ってもらえて嬉しかったです。でもたぶんシャーリーは、ルルーシュを誘う景気づけに僕を誘ったのだと思うので、とても申し訳ない気持ちになりました。

 学園が終わってから軍務に向かうと、ロイドさんにいきなり、残念でした、と言われました。それから、近々何かあるかもと嬉しそうに歌われました。冗談だと思ったのですが、特派の人たちが口をそろえて言うには、ロイドさんのこういう予感というか、予知というか、とにかくそういう変な言葉は、本当に残念ながら、あまり外れないそうです。まったく根拠がないわけではなくて、たまに連絡を取るロイドさんの直接の上司から、騒動の種になりそうなことを教えてもらっているんじゃないか、とセシルさんは言っていました。
 平和が一番だと思うのですが。でも、平和であれば、ランスロットの出番はなくて、前にも言われた移動の可能性が出てくるのです。僕は矛盾しています。

 あとで聞いてみたのですが、ルルーシュは案の定、断ったそうです。近場に散歩に行くくらいならルルーシュはつき合ってくれるのですが、基本的に出不精なのです。
 僕も昔は、彼を遊びに誘い出すのに随分苦労したものでした。はじめて遊びに行ったのは、ルルーシュが家に来てから、二週間以上経ったころだったと思います。たしか、近くの大きな自然公園に、ナナリーを連れて行きました。それもナナリーが行きたがったからです。そして、ナナリーが言っても、ナナリーの傍を離れようとしませんでした。結局その日は、花壇の中で三人で黙りこくっていました。僕も子供だったので、あまりにつまらなくて少しいらいらしていたのですが、家に帰ってから、ルルーシュが少しだけしゃべって、はじめて僕に笑いかけてくれたので、満足したような気がします。あのことがなければ、僕らは友達になっていなかったでしょう。
 あの自然公園は、今はもう、なくなってしまったかもしれません。あそこにルルーシュを誘ったら、彼は一緒に来てくれるでしょうか。感傷的だと笑われてしまいそうですが。

11/21

 昨日までの日記を読み返してみたら、ずっとルルーシュのことを言っていて、少し恥ずかしかったです。もう少し控えようと思います。彼にとって、いつの間にか日記に登場しているのは、あまりいい気分ではないことかもしれませんし、他にも理由があります。

 今日、休憩時間に日記を書いていたら、いつの間にか後ろに立っていたセシルさんに、ページを少しだけ見られました。と言ってもそれで、内容がわかるわけではないのですけれど。
 結果的には、ためになる忠告をしてもらえました。日記でも、日本と書くのはやめたほうがいいというのが、セシルさんの意見でした。手書きの日本語を解読しようとする人は少ないだろうけれど、元日本人の名誉ブリタニア人は少なくはないし、日本という単語くらいはブリタニア人にもすぐにわかるし、僕は微妙な立場にいるので、ロイドさんはそんなことはしないだろうけれど、いつ誰に検閲されてもおかしくないから、ということでした。
 僕は、もう、口では、イレヴンという言葉が、すぐに出てきます。でも、だからこそ、日記では日本という言葉を使おうとしていました。このことで、何か言われても、反抗するつもりでした。でも、ランスロットがいるから、まだ可能性があるのなら、僕は、イレヴンになります。
 明日から、日記でも、できるだけイレヴンと書こうと思います。でも、まだ、日本をイレヴンと呼ばない人はいるから、その人たちがいる限り、大丈夫です。

 ナナリーは、優しい子です。ルルーシュも、僕の前では、イレヴンという言葉を口にしません。僕は、二人がいれば、いつまでも、日本人でいられると思います。二人は、もしかしたら僕よりも、日本が好きだったからです。

11/22

 昨日、書いたことですけれど、今日限りということにしてください。ナナリーが言ってくれた言葉を変えたくないのです。

 今日はナナリーのお茶会に誘われました。篠崎さんというナナリーの世話係の人は、いませんでした。二人が僕らに気を遣ったか、篠崎さんが僕を避けたのかのどちらかでしょう。
 昨日思いついた、二人がもしかしたら僕よりも日本が好きだということなのですが、ナナリーに聞いてみました。するとナナリーは、それは二人は日本が好きだというより、僕のことが好きだから日本が好きなのだと言いました。ものすごく恥ずかしかったです。そのとき、ちょうど席を外していたルルーシュが戻ってきて、僕は赤くなっていたのを見られて、無言で頬をひねられました。たぶんナナリーに何かしたのかという意味です。どうしてルルーシュはいつも変なことを考えるのでしょう?
 でも、とにかく、こそばゆいような、不安なような気持ちになりました。二人は僕のことを(こう言うのは僕が自惚れているように思えますが)好きすぎるのではないでしょうか。二人の信頼を裏切れないな、と思います。本当に、そうできればいいのですが。僕は、二人が思うような、立派な人間でいられるでしょうか。

 後でルルーシュに、僕のことが好きだから日本のことが好きなのか聞いたら、五回くらいはたかれました。たぶん照れていたんだと思います。
 それと、自然公園のこともさりげなく話してみたのですが、ルルーシュは行かないほうがいいと言いました。あまり頑固に言うものだから、何か理由があるのかと思ってそう聞いたら、ルルーシュは何年か前に一度、ナナリーと一緒に、こっそりあそこへ行ってみたのだそうです。でも、何も残っていなくて、軍の施設が建っていただけだったということでした。
 ルルーシュは辛そうでしたが、たぶん僕のことを思って辛いと感じていたのだと思うのですが、僕はルルーシュがあんな顔をすることのほうが辛かったです。ルルーシュのせいではありません。

11/24

 昨日、河口湖でテロがありました。
 自分の無力を痛感しました。テロリスト、日本解放戦線には人質がありましたが、その中に、シャーリーや会長さん、ニーナさんがいたのです。僕はみんなを助けたかったのですが、それをしたのはゼロでした。僕はたぶん、人質の救出に何もできませんでした。
 ゼロは人質を救出した後、電波ジャックをして、イレヴン全体に向けて演説をしました。黒の騎士団というグループをつくって、なんといえばいいのか、彼の言葉を借りれば、「正義の味方」をするそうです。いったい何をするというのでしょう? 僕にはよくわかりません。悪だと思うものを取り締まりたいのなら、警察に入ればいいし、不正を正したいのなら、内側から規律を正せばいいのです。外側からの改革は、ただの暴力です。
 今気づきましたが、ゼロが求めているのは、イレヴンのための改革ではないのではないでしょうか。彼は、ブリタニアの革命をしようとしているのではないかと、思うのです。この違いを、わかってもらえるでしょうか。父さんなら、なんと言うでしょう。

 ゼロ、あのビルが崩れるとき、モニタとあの仮面越しだったのに、目が合ったような気がします。母さん、ゼロは、何を考えているのでしょう。彼のことを、僕は時々考えるのですけれど、どうしても彼を理解したくありません。僕が理解できないままで、イレヴンも、ブリタニアも、誰も彼を理解しないままで、出てきたときと同じに嵐みたいに、彼が消えてしまってくれればいいのに、と思います。そうしたらきっと、僕には日常が戻ってくるのです。ランスロットに乗って、特派の人たちと話して、学園に行って、ルルーシュやナナリーとたまに食事をします。僕にはそれだけがあればいいのです。それだけがあれば、僕は生きて、がんばれます。何かを信じることができます。僕や母さんが、父さんを信じていたようにです。人間は誰にでも、そういうものがあるんだと思います。どうして、それだけではいけないのでしょうか。

 これからまたしばらく、軍務が続きます。
 みんなが助かってよかったです。

 今日は、ルルーシュに会いたいような、会いたくないような、妙な気分です。着信があったのですが、出られませんでした。ルルーシュは、ゼロの言葉を聞いて、どう思ったでしょうか。ナナリーのことを、思い出したでしょうか。

11/25

 ルルーシュから電話があって、一昨日の河口湖の話をしました。もしかしたら知らないのかもしれないと思って、と言われたので、その現場にいたと言ったら、怒られました。技術部じゃなかったのか、というあれです。ナイトメアの整備もあるからとごまかしました。
 それが軍の昼の休憩中の話だったのですが、話していたところをロイドさんに少し聞かれていて、君整備なんて一つもわからないでしょ、と言われました。たぶん嫌味なんじゃないかと思います。明日からセシルさんに頼んで、整備方面の勉強もしようと思います。学校の勉強にもついて行けていないのに、本当に、至らないです。
 本当は休憩中でも、通話とか日記を書くとかいった私的なことをしてはいけないのですが、特派は規律が緩いので、許してもらえます。でも甘えすぎないようにしないといけません。学校にも通わせてもらって、少し気がたるんでいるのではないかと心配です。

 そう言えば、ロイドさんに、彼女かとからかわれました。違います。と反論したら、心配性の彼女に言い訳している彼氏みたいだったと言われました。どちらかというと、心配性の母さんに言い訳している気分でした。そう言ったら、ものすごい笑われ方をしました。ロイドさんのツボがよくわかりません。あと、心配しているのはルルーシュではなくて僕のほうです。

11/26

 昨日のことをセシルさんに話したら、がんばるのはいいことだけれど、できることから一つずつ片づけていきなさいとたしなめられました。それと、たぶんロイドさんは、嫌味のつもりで言ったわけではなくて、思ったことをそのまま口に出しただけだろうということでした。セシルさんは、よくあのロイドさんのことがわかるなあと思います。いつから副官をしているのでしょうか。今度、機会があれば聞いてみたいです。

 でも前に、リヴァルに同じようなことを言われました。どうしてルルーシュの機嫌とか、言いたいことがわかるのか、という話です。正直に言うと、僕は、ルルーシュのことをわかってなんかいないんじゃないかと思います。ルルーシュには、よく、鈍いと言われますし。でも、僕といるときだけ、ルルーシュはほかの人といるときより少し素直になるから、僕にでも何を考えているのかが察せられるのではないでしょうか。
 そう言うと、リヴァルになんだか変なものを見る目で見られました。それと、控えめに、ルルーシュと素直という言葉ほど合わないものはない、と言われました。母さん、ルルーシュは、けっこう素直ですよね?

11/30

 今日は学園に行きました。僕は一方的に知っていましたが、直接みんなの無事な姿を見られてよかったです。でも、学園の前に報道陣が人だかりを作っていたのには困りました。携帯で連絡すると、リヴァルが迎えに来てくれたので、無事に中には入れたのですが…
 三人は生徒会室でぐったりしていました。気の毒です。
 僕に軍務があるせいで伸びている、猫祭りの打ち合わせがあったのですが、いきなり連絡が入って、僕は来てすぐに軍務に戻らなくてはいけませんでした。コーネリア殿下が、先日の河口湖のことがあって、また視察に来られたのです。一緒にユーフェミア殿下もおられました。殿下はあまり表に出られないので、すごく久しぶりに姿をお見かけした気がします。後でロイドさんが言っていたのですが、あのビルに、ユーフェミア殿下もいらっしゃったそうです。特派はお礼を言われましたが、僕は肩身が狭かったです。
 ロイドさんは、どさくさに紛れるどころか堂々と、ごほうびには特派の研究スペースを、と申請して、却下されていました。特派の人はみんな、両殿下が来られただけで緊張していたのに、すごい人だと思います。

 ブリタニアの皇族の人々は、母方の血が繋がっている兄弟姉妹のほうが珍しいということですが、コーネリア殿下とユーフェミア殿下は両親ともに同じなのだそうです。でも、お二人はあまり似ておられません。どちらかというと、ユーフェミア殿下の穏やかで優しいところや、コーネリア殿下のきついけれど情に厚そうなところのほうが、似ているのではないでしょうか。こんなことを言ったら怒られそうですが。