傾国

枢木日記

11/10

 今日もいろいろありました。
 というのも、ルルーシュの何か大事なものが猫にとられたということで、なんと学園全体で猫探しをしていたからです。ルルーシュは人気者のようですが、そんなに目立って大丈夫なのでしょうか。もちろん本人には、そんなつもりはないのでしょうが…
 それと、この学園の会長さんは、とても愉快な人のようです。事務の人も言っていましたけれど、とてものんびりした校風みたいです。それでも、差別や偏見からは、逃れきれないのかな…と思いました。あれくらいのことは、軍でたまにあった嫌がらせにくらべれば、なんてことはありません。でも、同じ年代の人にされているのだと思うと、少し落ち込みます。

 こんなことを書いていると、日記のページまで湿ってしまいそうですね。いいこともありましたので、話を戻します。
 猫を捕まえた人は、生徒会のメンバーからキスをもらえるという話でした。それで大勢の人が学園に残って猫を探していたようです。生徒会の人は、みんな人気者なんですね。もしかしてルルーシュは、木の葉を隠すなら森、と思ったのでしょうか。正直、あまり意味があるとは思えません。生徒会の中でも、ルルーシュは目立っています。猫を探している最中にも、何度か、ルルーシュの名前を叫んだり、ぶつぶつ呟いたりしている人たちとすれ違いました。ルルーシュが今まで無事だったのは、一種の奇跡なのかもしれません。
 幸い、ルルーシュは自分で、大事なものを取り戻せたみたいです。けれどそれまでに、屋根から落ちかけたりして、まったく本当に、ルルーシュは僕を心配させるのが得意です。しかも、僕と友達だと宣言までしました。困ります。僕が、すごく嬉しいと思ってしまったので、とても困ります。
 明日からもう、普通に話してもいいみたいです。恥ずかしいものって、日記のことかって、聞いてみようと思います。

 ルルーシュと一緒に捕まえたので、ナナリーが頬にキスをしてくれました。なんだか気恥ずかしかったです。ルルーシュが僕の頬を見て震えていたのが印象的でした。彼のシスコンは、全然改善されていないようです。むしろ、板に付いてきたように思えます。

 今心配なのは、あんなにナナリーのことばかり見ていて、この先女性と家庭を作ったりできるのかということです。
 ルルーシュと再会してから、僕は心配してばかりです。それでもまさか、ルルーシュの唇や将来の家庭の心配まですることになるとは思いませんでした。僕が心配するまでもなく、彼は自分の唇は自分で守るだろうし、すばらしい女性を見つけるだろうとは思いますが…心配です。たぶんナナリーも心配しているのではないでしょうか。もっとも、ナナリーもかなりのブラコンなので、僕の考えすぎかもしれません。あの二人はこれから先も、ずっと二人でいるのかもしれません。
 僕はたまに、このまま日本語を忘れていくのだろうかと思うことがありますが、心配という熟語だけは忘れないような気がします。これは、ルルーシュのおかげだと感謝するべきなのでしょうか。

11/11

 ルルーシュに、まだ日記を書いていることがばれてしまいました。少し恥ずかしいです。変な質問をするのじゃなかったと後悔しています。
 ただ、昔と違って、ルルーシュはからかったりしませんでしたし、見せろとも言いませんでした。そして僕が、父さんに、母さんに報告するつもりで書きなさいと言われたことを覚えていました。こういうとき、どう言えばいいのかわからないけれど、ルルーシュと再会できてとても嬉しいです。
 この日記は、バックアップなんてとれないし、僕が死んだら一緒に燃やされるでしょう。でも、遺言状に、ルルーシュに譲るよう書いておくこともできます。彼にとって、自分が心配されているのだと知ることは、悪くないことなのではないか、と思います。もちろんそうする場合は、検閲のことを考えて、彼に見せるには不適切な部分は消しておかないといけませんが。

 でも、ちょっと高い透明インクを使って、この隅っこにもこっそり書いていることは言いませんでした。僕自身も、自分がどうしてこんなことをしているのか、よくわからないのです。どういう基準で隠しているのかも、ちょっとわかりません。それに、ルルーシュと再会してから、このインクを使う機会が増えた気がします。謎です。

11/15

 また、少し間が開いてしまいました。軍務と授業と生徒会、というのは、とても楽しくはあるのですが、けっこう疲れます。体力ばかでよかったです。
 前の日に書いた、ルルーシュにこの日記を渡すという話なのですが、ルルーシュに話したら、すごく静かに怒られました。あんまり静かだったので、僕は途中まで、彼が怒っているということに気づけなかったくらいです。リヴァルが取りなしてくれなければ、そのままいきなり殴られていたかもしれません。会長さんが差し入れてくれたプリンを僕の分も貢ぐことで、機嫌は直してくれたようでしたが、命の危険はないんだろうとぶつぶつ文句を言われました。そう言えば、技術部としか言っていなかったのでした。危ないところでした。

 許してくれた後、ちょっと泣きそうな顔にも見えたので、もうこの話は言わないことにします。悩むのは、自分の中だけでにします。
 

11/16

 セシルさんの好意で、おにぎりをいただきました。おいしかったです。
 おにぎりって奥が深いと思いました。そう言えば、パンには、肉や魚のフライを挟むし、ジャムだって塗りますね。米だって、餅にして、あんこやきなこをつけたりします。それと一緒です。
 セシルさんは創作料理が趣味なのだそうで、これからもたまに、作って持ってくると言ってくれました

 寝る前に思い出したのですが、おにぎりといえばルルーシュが、昔、梅のおにぎりを食べて、涙目になっていました。でも、我慢して食べていました。ルルーシュはとてもえらいです。

 まだ起床時間ではないのですが、目が覚めました。二度寝する時間はないので、少し早めに起きることにします。
 次にセシルさんが料理を持ってきてくれたら、タッパに詰めて、学校に持って行くことにします。ブリタニアの人たちなら、僕よりもおいしいと感じるのではないでしょうか。
 どうか、怒らないでください。先ほどブルーベリージャムが夢に出てきました。

11/17

 昨日のことになりますが、埼玉で大規模な掃滅作戦があり、そこにゼロが現れたそうです。埼玉が壊滅状態になって、ゼロは取り逃がしたということ以外、何があったのか、わかりません。
 世界は、いつも、僕の知らないところで動いています。ランスロットのデヴァイサーに選ばれて、僕は、無力な状態から脱出できたように思っていました。でも、総督殿下の許しがない限りは、どれだけ強力な力があっても、意味がないのです。
 特派は、今は一応、この国にいるのですが、成果が上がらなかったり、つまはじきにされたら、本国にいるロイドさんの直接の上官、つまり皇子殿下の一人の意向で、どの国へ飛ばされてもおかしくないのだそうです。セシルさんが言うには、一番ごり押ししやすいからという理由で、クロヴィス殿下のところへ来たということでした。けれど、コーネリア殿下は特派をあまり信用していらっしゃらないので、このままだと、どこか別の国へ移動することになるだろうと、セシルさんは考えているそうです。その場合、僕の所属がどうなるかはわかりません。せっかく入れてもらったし、学園には通いたいですが、僕は軍人です。ランスロットを手放すこともできません。たぶん、特派として着いていくことになるでしょう。
 でも、日本を離れて、その間に、ゼロが捕らえられたり、処刑されたりしたら、と思うと、説明しにくい焦燥にかられます。僕の知らないうちに、日本が、まったく違う場所になってしまうと考えると… ああ、ゼロは僕の中で、いつの間にか、昔の日本人、日本を諦めていない人の象徴になっているのでしょうか。
 ちゃんとまとめられません。たぶん、すぐに答えが出るようなことではないのだと思います。

 ルルーシュとナナリーのことを考えました。一度、離れたら、もう二度と会えないかもしれません。考えただけで、胸が締め付けられるようになります。それに、もしそういうことになったら、二人はとても悲しむと思います。これは僕のうぬぼれではないと思います。
 ルルーシュに、技術部でも、他国に移動するかもしれないと、言ったほうがいいでしょうか。でも、遺言のときのような顔をされるのは嫌です。
 もう僕のことで喜んでくれるのは二人だけのような気がしています。

11/18

 これは、一昨日の話になります。昨日、書こうと思っていたのですが、不謹慎だと思ったので。
 シャーリーはルルーシュのことが好きなのだそうです。ちょっと、意外です。何がどうして意外なのか、自分でもわかりませんが、たぶん、シャーリーのようなタイプの子が、あのころルルーシュのことを嫌っていたことを覚えているからだと思います。あの子も、ルルーシュのことが好きだったのかもしれません。本当に嫌いだったのかもしれません。どちらにせよ、ルルーシュがまったく気にしていなかったのは確かです。
 電話で彼女のことをどう思っているか、うまく聞き出すと言ったのに、信用してもらえませんでした。僕は、そういうのが下手そうに見えると言うのです。心外です。少なくとも、ルルーシュよりは、うまいと思います。ルルーシュと比べるのが悪いのでしょうか?

 ルルーシュは好きな子ができたら、僕に教えてくれるでしょうか。彼はそういうところは秘密主義なので、言わないような気がします。聞いたら、仄めかすくらいはしてくれるとは、思いますが。

11/19

 昨日と今日は先日のテロの影響か、いろんな部署から視察が入ってきて、一日中軍務でした。だから、学園には行けませんでした。でも今日、昼の休憩時間に少しだけ抜け出そうとしたら、門の前にルルーシュがいてびっくりしました。ちょうど、生徒会の会計関係の仕事で出かけるところだったそうです。でも、放課後でもいいということだったので、近くの店でおにぎりを買って、ルルーシュのお弁当を少し分けてもらって、門の脇で一緒に昼ご飯を食べました。
 結局放課後も学園には行けませんでした。午後はものすごくお腹が空いていて、ロイドさんにからかわれたり、セシルさんに何か、食べ物を、もらいそうになったりはしたのですが、いい一日でした。

 昼ご飯を食べながら、ルルーシュに、好きな人がいるのか聞いてみました。ナナリー以外で。僕だと言うのでちょっと照れましたが、意味が違います。そう言ったら、それ以上は特にいないということでした。シャーリーが、ルルーシュはカレンさんのことを気にしていると言っていましたが、あまり気にしないで、積極的に行けばいいのではないでしょうか。
 でも、別れ際にもう一度確認したら、否定はしたのですが、返事に少しだけ間が開きました。それで、本当は、とても好きな人がいるんじゃないかという気がしました。もしかして、叶わぬ恋、というやつなのでしょうか。もしそうなら、僕は、応援するべきなのでしょうか。