傾国

枢木日記

10/05

 今日は久しぶりに、刺身を食べました。ブリタニアの人は生魚が苦手だって、本当なんだなあと、軍に入ってから実感しています。みんな、全然食べないんです。僕たちを見る視線が、なんだか妙で、少し悲しくなりました。
 ときどき自分のしていることが、まるで無駄なのではないかと思うことがあります。そういうときは、父さんのことを思い出します。父さんは、死ぬときまでずっと、信念を持っていました。それを、僕が覚えている。そうして、変わらないものや、変えていけるものがあるのだと信じます。
 先ほどから、一つ上のフロアが慌ただしいです。何か騒ぎが起こったようです。日本人に関係することでなければいいと思いますが。そんなことを思うのは、やっぱり僕が未熟だからなのでしょうか。

 刺身と言えばあのころ、もてなしの一環としてマグロを目の前で捌かれたルルーシュが、卒倒しそうになりつつも根性で耐えていた、微笑ましい姿が思い出されます。あれは父さんなりのブリタニアへの嫌がらせだったのではないかと、実は疑ったこともありました。もしそうだったとしたら、ルルーシュがかわいそうでした。でも、父さんはそんなことをしませんよね。一瞬でも疑ったことを反省しています。ルルーシュが疑っていたら、違うよと言ってあげるためにも、父さんから言質を取っておけばよかったです。
 ルルーシュは今どうしているのでしょう。根拠はないのですが、なぜか、もうすぐ会える気がするんです。

11/05

 久しぶりの日記になります。書かなかった間、たくさんのことがありすぎて、どこから書けばいいのかわかりませんが、順番に思い出して、書き留めておきます。

 まず、新宿で、レジスタンスに対する作戦行動がありました。
 そこで、ルルーシュに再会しました。レジスタンスが盗んだという毒ガスのところでです。なぜそんなところにいたのか、聞く暇もありませんでした。そして、毒ガスは毒ガスではありませんでした。女の子でした。このことについては、僕はいまだに混乱しています。ですが、僕にはそれを調べる権限がありません。歯がゆいです。
 ルルーシュになじられて、その後すぐ、僕は気を失ってしまったので、ルルーシュがどうなったのか、わかりません。ロイドさんに…この人についてはあとで説明しますが…死傷者の名簿を確認してもらえたので、最悪のことにはなっていないみたいです。そう聞くと、ルルーシュのことだから、どうにか切り抜けたんじゃないかと思えます。これから少し自由にできるようなので、できるだけ時間を使ってルルーシュを探し出さないといけません。どうか母さん、父さんと、マリアンヌ皇妃殿下と一緒に、ルルーシュを守っていてください。あの女の子も。

 それから、ランスロットというナイトメアのデヴァイサーを務めました。第七世代のナイトメアフレームで、僕は幸い、適性がよかったらしいです。特派の部長であるロイドさんと、その副官のセシルさんは、適性が第一で、日本人が騎士になるというところにはこだわらないようでした。お二人には感謝しなくてはいけません。
 ランスロットを使って、機体をすべて止めれば、戦闘も終わると思ったのですが、僕がそうする前に、クロヴィス殿下から停戦命令が出されました。その殿下の判断は正しかったと思います。思っていました。けれどそれは、クロヴィス殿下の判断ではなかったのです。ゼロが、クロヴィス殿下を脅して、停戦命令を出させたそうなのです。
 まったく心当たりのないことですが、クロヴィス殿下は殺害され、僕は容疑者として連行されました。取り調べを受けましたが、やっていないことをやったとは言えません。でも、証拠が不確かなまま、僕は軍事法廷にかけられることになりました。

 そして僕はゼロに助けられました。彼は、その後、僕を仲間に誘いましたが、彼がなぜ僕に目をつけたのか、よくわかりませんでした。彼の考え方は、僕には理解できませんでした。というより、受け入れたくありませんでした。毒ガスをあんなところに持ってきて(実際は毒ガスではないのだと、ゼロは知っていたようでしたが)、民間人が巻き込まれる可能性もあったのです。それに、僕には僕のやり方があります。
 彼はただのテロリストです。主張があるなら、顔を見せて、堂々と主張すればいいのに。
 彼に感謝はしていますが、この恩を返せるかは、わかりません。僕は、もしかしたら、それを恩だとも思っていないのです。僕は狭量な人間でしょうか。

 しかしとにかく、ゼロの混乱のことがあって、僕はあっさりと釈放されたようです。もともと証拠もおかしかったのだから、当たり前のことですが、拍子抜けしました。
 すぐに落ち着ける場所もないので困っていたら、上から女の子が落ちてきました。女の子って、意外なところから出てきます。
 彼女としばらく行動を共にしたのですが、いろいろあって、彼女が今度から日本の副総督になる、ユーフェミア皇女殿下だということがわかりました。とても素晴らしい方です。しかし、できればもっと早くに、身分を名乗られてくださったなら、接しようもあったのですが。もっとも皇女殿下は、それが楽しかったのだろうと思います。
 僕は技術部(さきほど書いていた、特派のことです)に移動になりました。とりあえず身分は保障されるし、給料も出ます。安心してください。
 それから、皇女殿下の取り計らいで、僕はどこか学校に通わせてもらえるそうです。勉学については、しばらく軍教育しか受けていなかったので、嬉しくはありますが心配です。
 長い日記になってしまいました。明日は軍務が終わったら、単位休暇をとって新宿に行って、ルルーシュを見かけた人がいないか探すつもりです。だから、今日はもう寝て、明日に備えます。

 ところで母さん、大変です。
 ゼロからいい匂いがしたんです。この間再確認した匂いです。全力で否定したいところです。あのクールでかっこつけでかわいいルルーシュが、あんな戦隊ものの悪役みたいなチューリップ仮面を被るなんて、信じがたいことです。でも、昔からルルーシュは、日本人の僕には想像もつかない妙なセンスを発揮していました。心配です。とても心配です。もし僕の人生がドラマなら、テレビの前の人にはきっと、ゼロの正体がわかっているんでしょうね。僕もテレビの前に座って、ゼロ、というかルルーシュの行動を逐一チェックしたいです。そして時にはノーと言える日本人でいたいです。
 ああ、母さん、どうか、ルルーシュが間違った道へ行かないよう、お導きください。それと、言動が多少キリスト教ナイズされてきているのを許してください。今、周囲にはキリスト教の人がほとんどなのです。でも、僕は生涯、枢木の名にかけて真言宗で通します。

11/06

 目撃情報はありません。
 皇女殿下から連絡が来ました。僕は、私立アッシュフォード学園に転入が決まったそうです。アッシュフォード、どこかで名前を聞いたことがある気がするのですが、思い出せません。有名な学校なのかもしれません。だとしたら、たぶん僕は、あまりいい扱いをされないでしょう。けれど父さんがいつも言っていたように、やり遂げる意志があれば、たいていのことはうまくいく、と思ってがんばるつもりです。

 再会を果たしたせいか、ルルーシュに会いたくてたまりません。ついこの間までは記憶の中にいる彼だけで耐えられたというのに、僕は欲深い人間です。部屋の中や公園のそこかしこで、ルルーシュのことが思い出されます。あのガスマスクを回収できなかったことが、返す返す悔やまれます。いえ、もちろん、ガスマスクだけあったところで仕方ないのですが…

11/07

 目撃情報はありません。レジスタンスはアジトを変えたらしくて、新宿には今もう、人がほとんどいません。新宿から移った人を探します。
 今日、特派の人が、ランスロットに傷をつけそうになりました。未遂でしたが、声を出して笑っているロイドさんの目が笑っていなくて、ものすごく怖かったです。怒らせないようにします。

 ルルーシュと再会できたら、絶対ロイドさんに会わせないようにしよう、と思いました。なんとなくなのですが。なぜこんなことを思うのか、不思議です。

11/08

 明日から学校です。教科書をそろえるのが久しぶりで、そんな場合ではないのですが、遠足みたいな気分になりました。

 遠足と言えば、裏山に遊びに行ったとき、ふと気づくとルルーシュが蛇と見つめ合っていて、ものすごく驚いたことを思い出します。今思えば、あのとき彼がじっとしていたのは、硬直していたからではないでしょうか。たぶん、蛇を見るのがはじめてだったのだと思います。こうして書き出してみると、だんだん記憶が戻ってきました。蛇を追い払ったあと、家に手を繋いで帰りましたが、そのときのルルーシュの手は、とても冷たかったです。それと、たしかその晩は、ルルーシュが夜に部屋に遊びに来たので、一緒に寝ました。
 ルルーシュの手は今でも冷たいのでしょうか。もしそうなら、再会できたときに、僕が暖めてあげたいと思います。
 再会できたら、再会できたらとずっと楽観的に書いていますが、僕は本当に、再会できるような気がしているんです。母さんが教えてくれているのですか? そうだったらいいなと思います。

11/09

 ルルーシュに再会できました。母さん、父さん、マリアンヌ皇妃殿下、ありがとうございます。
 ナナリーにも会うことができました。昔と変わらず、優しいままでした。僕の無事を知って、喜んでくれたので、少し照れました。そういえば、ルルーシュは少しがさつになっていました。あちらが言うには、僕はおとなしくなったそうです。自覚はないのですが…それに、お茶を入れてくれました、ルルーシュが! びっくりして倒置法になってしまいました。
 どこで再会したかというと、アッシュフォード学園なのです。皇女殿下に感謝します。新宿で情報を集めるにも一苦労だったし、成果もなかったので、あのままではきっと、見つけることはできなかったでしょう。
 女の子とははぐれてしまったそうで、それだけが気がかりです。ルルーシュは、軍が保護したんじゃないかと言っています。保護であればいいのですが。いったいあの女の子は、なんだったのでしょう。クロヴィス殿下の軍は今ものすごく混乱していて、デマが飛び交っているので、まともな情報は望めません。
 でももう、ごちゃごちゃと考えるのはよします。今日は嬉しい日でした。ルルーシュと学校で話すのは彼にとっても危険だし駄目ですが、たまにはこうやって、一緒に食事をしたりできるのではないかと思います。

 ルルーシュはクラブハウスに住んでいるのですが、ナナリーと、篠崎さんという看護士さんとは別の、誰かの匂いがします。気になります。そう言えばルルーシュが席を外した隙に、ナナリーが、ルルーシュが太っていないかと聞いてきました。近頃よくピザを食べているのだそうです。相変わらず細いと答えましたが、ルルーシュとピザというそぐわない組み合わせに、なんとなく嫌な気持ちになりました。本当にルルーシュ、誰か飼っているのではないでしょうか?
 昔、はじめて見たもぐらに、俺が養ってやる(なぜ、飼ってやる、ではないのでしょう?) とはしゃいでいた姿が思い出され、僕は戦々恐々としています。
 ピザを悪というつもりはありませんが、ルルーシュのあの指がふっくらしてしまったら、それはそれでいいことなのだけれど、悲しい気がします。ルルーシュのことだから体調管理には一応気を配ってはいるでしょうが、彼は僕の度肝を抜くエキスパートなので、不安です。
 ルルーシュのことばかり語ってしまいました。無事を知って、安心した反動でしょうか。
 明日も学校でルルーシュに会えます。嬉しいです。早く明日にするために、今日はもう寝ます。