傾国

ひとつめ

オール ハイル ブリタニア ブリタニャー

吾輩は猫ではない

 吾輩はアーサーである。名前はどこぞの金毛がつけた。
 そして吾輩の目の前にいるのは犬である。
「うう、相変わらず懐かないなあ」
 何かぼそぼそと吠えている。茶色くて無駄にでかい、活気のない犬である。しかもしつこい。吾輩はあの、よくしなるふわふわしているものは好きだが、この犬は気に喰わん。それで吾輩の関心をかおうとしているところが、莫迦種族のくせに姑息なのである。
 吾輩はふわふわしたものから顔を逸らし、椅子から飛び降りた。ちょうど手近に見つけた細長い足場に登る。
「え、なんだっ」
 登ってから気づいたが、なんだか動くようだ。まあいい。安定しているところまで登り、細っているところに伸びることにする。
「ふわあっ?」
 近くで大きな鳴き声が聞こえた。近くに同族でもいるのだろうか。見回すが、それらしき姿はない。
「…すごいねルルーシュ、マフラーになってくれるほど、懐かれてるなんて」
「バカ言うな…これ、今、直接だぞ、なんか固いものが当たって…」
 この場所でも安定が悪い。身じろぐと、土台ごと動くのだ。
「う、動くなああ、こいつ降ろせ、スザク!」
「…そうだね、ちょっと見ていて怖いかも…」
 もぞもぞしていると、いつの間にかまた近くに寄ってきた犬が、恐怖の目で吾輩を見る。ようやく序列関係を学んだのかと思ったが、すぐにまた手を伸ばしてきた。まったく学習が遅い阿呆である。
 吾輩は軽く牙をむき、威嚇してやった。するとすぐに、こちらへ向かっていた手が止まる。ふむ、吾輩のこれまでの武力行使が奴に恐怖感を与えていることを確認できたわけだが、これしきのことで迷う犬など、存在意義を見失っている。
「す、すざく、つめ立てるなよ」
「そ、そんなこと言っても、僕じゃ絶対」
 犬めが、おろおろしていやがる。それ以上その手を吾輩に近づけてみろ、即座にぼろぼろにしてやる。吾輩の攻撃が噛みつきだけと思っているなら大間違いなのである。能ある吾輩は爪を隠すのだ。
 あ、興奮すると爪が出る。
「――いたッ ぁ!!」
「ルルーシュ!」
 不意に喉が詰まり、次の瞬間、吾輩は土の上にいた。瞬間移動でも会得したのだろうか。
「だっだいじょうぶルルーシュ、どうしよう、保健室、医務室、どっち!?」
「…どっちも一緒だ落ち着け、とりあえず何か、血をふくものをくれ」
 知らぬうちに進化していたことに気づけぬとは、吾輩も未熟である。吾輩は哲学の種族、犬めのように堕落せぬよう、常に考えなければ。幸い散歩日和である、歩きがてら、思索を深めるのがよいだろう。
「えっでも何も…あ、うんわかった!」
「はっ? スザクなんで…うわ、おいちょっまさかばかやめろそれは菌が毒が…――ッ!!」
 天気のいい日である。