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農薬の知識

(I)農薬の必要性

1)天敵も農薬
 我々人間や動物に使用する薬は薬事法という法律によって登録され、医薬品や医薬部外
品として販売されている。動物同様に生きている植物も当然のことであるが病気にかかっ
たり、害虫の被害を受けたりする。
 植物に使用する薬が農薬であり、農薬取締法という法律の規制を受けている。
農薬取締法には農薬の定義が記されており、要約すると次の3タイプの製品がある。

@農作物(家庭園芸で栽培されている植物も含む)を害する菌、センチュウ、ダニ、昆虫、
ネズミなどの動物、雑草などを退治する薬剤(殺菌剤、殺虫剤、除草剤など)
A農作物の生理機能を増進または抑制する薬剤(植物成長調整剤)
Bその他の薬剤(展着剤など)
 植物を加害する病害虫を退治する目的で販売される薬剤はすべて農薬になる。化学合成
物だけでなく、天然物、アブラムシやハダニなどを食べる天敵、医薬品として人間にも使
用されている薬剤、我々が普段食べたり触れている食品や石けんの成分なども農薬として
販売されている。

2)農薬を必要とする背景
 農薬の「善」の部分よりは「悪」の部分が非常に強調されている今日であるが、客観的
に農薬の善悪を評価する必要がある。肉食の動物もいるが、多くの動物(昆虫も動物の一
部)は植物を餌として生存している。我々人間が大切に育てている植物はそれらの動物に
とっては餌でもある。例えば、何も防除をしないと、りんごでは97%、キャベツでは63%、
キュウリでは61%、水稲では28%の減収になるとされている(日本植物防疫協会調査によ
る)。
 日本の気候は四季に分かれ、病害虫の発生しやすい魔境でもあるが、野原や山林に比べ
病害虫の被害が多い。これには次のような理由が考えられる。
A 自然界のバランスが崩れている
 整理整頓された家庭の庭、畑で単一植物を広面積で栽培すること自体が、自然界のよう
に多種多様な植物が入り交じって育っている状態とは異なる。このような状態で病害虫が
発生するとまん延して、被害が拡大する。
B 天敵が少ない
 自然界では植物を食べる虫→その虫を食べる鳥や天敵→虫の死骸や鳥の糞を養分にして
育つ植物、というサイクルが成り立っている。しかし、クモなどの天敵を人が嫌がって退
治する、鳥が来ないなど、害虫が発生しても天敵の繁殖が追いつかないため被害が大きく
C品種改良で本能が失われた
 植物も病害虫に加害されると、自ら殺虫成分を作ったりして食べられなように自衛本能
を働かせて被害を防ごうとする。ところが、花をより大きく、より美しく、野菜ではより
美味しくなど品種改良された植物では、このような本能の多くが失われているため被害を
受けやすくなっている。また、肥料を与えて健やかに育った植物は病害虫にとって栄養価
も高く、美味しく感じられると思われる。
 しかし、農薬は万能ではない。使用する必要性がなければそれにこしたことはなく、む
やみに農薬を散布することは避けなければならない。病害虫の発生しにくい環境を作った
り、肥培管理に気をつけて丈夫な櫨物を育てることが基本であることはいうまでもない。

3)農薬の登録制度
 農薬は散布するため、大気を汚したり、土中に残留する。更には、散布された野菜や果
樹などを我々人間は毎日食べることになる。そのため、農薬に登録の制度を設け、農薬の
品質の適正化と適正な使用方法を定め、農業生産の安定と国民の健康のため、更に、生活
環境を守ることを目的にした農薬取締法がある。天然物は農薬ではないという考え方は農
薬取締法には通用せず、植物の病害虫などを退治する薬剤は、たとえ天敵や天然物でも農
薬として登録することが義務付けられている
登録を取るためには次のような項目について確認しなければならない。

A効果試験
 農薬として使用する以上、病害虫に対する効果を確認することは当然のことである。更
に、植物に対する薬害の有無についても調べる。
B毒性試験
 毎日食べた場合の影響、生殖機能や次世代の生存や発育に対する影響、遺伝子のDNA
に対する影響、神経に対す影響、胎児の形態異常や機能障害に対する影響、カブレの有無、
発がん性の有無など多くの試験が実施されて安全性を確認する。
C代謝試験
 散布された農薬が植物体や土壌中さらには動物の体内での分解過程や排泄過程の有無な
どを調べる。
D残留試験
 植物体内や土壌に残る量を調べたり、散布された植物を食べた家畜の乳や肉への影響を
調べる。
E環境に対する影響試験
 水産動植物(魚、ミジンコ、藻など)に対する影響、蚕やクモ、ミミズなど有用生物に
対する影響など、生態系や環境に対する影響を調べる。
 このように、農薬の登録を取るためにはあらゆる角度から安全性などが調べられ、その
結果、登録が認可される。逆にいえば、登録のある製品を使用方法などを守り、適正に使
用すれば「植物にも人にも安全である」ということになる。